mixiユーザー(id:2938771)

2023年12月16日14:31

22 view

なかった落とし物、その2

「女を持っていなかった女」
母性がない

 部屋は風呂なしトイレ付き、風呂は混浴があり、男女別があり、家族風呂があるのだが、男女別には入らない。ようするに二十四時間一緒にいたいからだ。一人好きの筆者には、少しばかり鬱陶しいのだが、ガソリン代まで含めて、すべて女が経費をもってくれるなだから不満はない。その女は酒が嫌いなので、それを筆者だけが楽しむということも出来ないのだが、それも無料で混浴を楽しめるのだから仕方のないこと。
「今回は、いくらぐらい貢いだんですか」
 旅館の用意したお茶を淹れながら筆者は浴衣も着ないで、服のまま畳に寝転んだその女を見るともなしに言った。
「三百万ぐらいかな。借用書は取ったよ。取り立ててくれる。そしたら、全部上げるけど」
 その女は筆者の顔を見ることもせず、まるで天井と会話しているかのように、そう言った。
「割に合わないんですよ。でも、無料でいいなら、借用書、いつものとこに回しておきますよ。まあ、取れはしないでしょうけど、少しは、気が晴れるでしょ。東京帰ったら預かります」
 筆者の知り合いの闇金融業者に借用書を渡してしまうのだ。そのためにも、借用書は、けっこう、きちんとしておく、そう女には教えてあるし、用紙も渡してあるのだ。もちろん、取れない。闇金の業者もそれと分かっていて取り立てをするのだ。それで十万にでもなれば、少しは儲けになるし、何よりも新入りの練習になるからいいのだ、と、そう言っていた。
 個人から借りていれば、その相手が風俗嬢であれば、なおさら安全だと思っている男は、それによって、少しは痛い目に遭うことになる。それで溜飲が下がるということもないのだろうが、何もしないままに泣き寝入りするよりは、まだ、いいのかもしれない。
「お茶、濃いめに、ね」
「分かってますよ。それに、コーヒーのセットも用意して来ていますから、お茶の後には、美味しいコーヒーを淹れますよ。どうせ、夕食までは、まだ、けっこう時間がありますからね」
「もう、お風呂行って見せたいんでしょ」
 見せたいのだ。それが筆者の趣味なのだから。
「この旅行は、いちおう傷心旅行ですからね。そういうのはいいですよ。それより、浴衣になりましょうよ。ほら、この浴衣、ちょっと可愛いですよ。それとも、フロントに言って子供用を用意させましょうか」
 これは冗談ではない。子供用の浴衣のほうがいい場合もあるのだ。その女はそれほど小さかったのだ。何しろ、身長もないが、肉もないからなのだ。
「立つの面倒になった。着るのも面倒。生きてるのも面倒」
「じゃあ、寝ていればいいですよ。今、脱がして、着せてあげますから」
「そんなこと出来ないくせに」
「出来ないですよね。じゃあ、ちょっとは協力してください。だいたい、そういうのが好きなら、お店で女王様プレイしたらいいんじゃないですか」
「この身長じゃあ無理じゃない。それに、女王様プレイなんて好きじゃない。私、そんなに面倒見がよくないから」
 そうなのだ。何でもしてもらえるのは本物の女王様で、女王様という名の風俗嬢はお客であるM男に何でもしてやらなければならない、そうしたものなのだ。そして、その女には、そうした母性が少しもないのだ。いや、その女にないのは母性ではない。女としての本質のようなものが大きく欠落しているのだ。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年12月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31