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2023年12月14日15:22

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老いた編集者老いを語る、その6

 編集者というものは、常に、何が新しいかについて考えている人のことなのだ。たとえば、右耳で聴いていた音楽を左耳で聴いたら新しいかもしれない、と、そう考えるものなのだ。毎日のように通う道を嫌い、遠回りしてでも違う道を選ぼうと考えて迷子になるものなのだ。コンビニで新しいスイーツが出ればそれを食べて、いつものどら焼きでよかったと後悔しているものなのだ。つまらなくても、不味くても、辛くても、遠くなっても、無駄にお金を失っても、それでも、新しいものを求める人が編集者なのだ。新しいものを求めているなら、本も雑誌も作らなくても、その人は編集者なのだ、と、誰かが言えばいいように筆者は思っている。
 そして、筆者は、そんな新しいものばかりを求めるあまりに、何一つ手に残せないような立派な編集者になったのだ。仕事の実績も、業績も、資産も、そして、もちろん現金さえ残せない立派な編集者になったのだ。
 立派な編集者になれたのはいい、ただ、立派な編集者になった今、筆者は、いつまで、新しいものを求め続けなければいけないのかに疑問を抱いている。若い頃には、人は老いるほどに保守的となり、古きを守り、頑固になり、のんびりとして行くものだと信じていた。
 ところが、違うのだ。
 老いれば老いるほどに、新しいものを求めるようになったのだ。理由はかんたんだ。もう先が短いのだから、今、新しいことを体験しておかなければ、その体験をしないまま終わるかもしれない、と、追い立てられているからなのだ。新しい食べ物は食べておかなければならない。新しい場所には行ってみなければならない。新しい店には行っておかなければならない。新しい人には会っておかなければならない。昔の友を懐かしむことはあるが、会いたいのは知らない人となのだ。
 小説などは、まだ読みかけのもがあったとしても、新しい小説を読むようになるのだ。若い頃は読みかけの小説があると先が気になって、とても、次の小説など読む気になれなかったものだが、老いると、それは気にならなくなる。読んでいたことなど忘れられるから大丈夫なのだ。
 それなら、この老いた今こそ、編集者として、素敵な仕事が出来そうなものなのだが、そうはいかない。そうはさせない体力の衰えというものがあるからなのだ。新しいことには貪欲だが、体力はついて行かない。
 先日、新しい珍味を食べた。味はいいが、お腹は壊した。新しい食べ物に耐える体力が胃にはないらしい。遺跡を見に山の麓まで行った。山頂にある狼を祭った石が見たかったのだが、歩いて登るという事実に挫折した。山に登る体力はないのだ。新しいスポーツもしたいが、ルールを覚える記憶力がない。
 残念だ。筆者ほどの編集者が、体力の衰えで編集者になれないのだ。今ならエロ本以外の本も編集出来るはずだというのに。
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