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2023年03月18日15:18

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喫茶店のある街、その9の2

 コーヒーに拘りのある少しばかりマニアックな喫茶店の二階の部屋のドアをノックすると耳慣れたママの声で「どうぞ」と、言われた。ドアを開けると、フローリングの床にラグマットが敷かれ、ドアの正面には大きな窓があり、そこには厚い黒のカーテンがあった。簡易ベッドは緊縛や軽い吊りが出来るように改造されていた。右の壁には鞭や縄が下がり、左の壁には磔台のようなものがあった。下の喫茶店のコーヒーに対する拘りほどには拘りの伺えない安易な記号論的なSМルームがそこにはあった。
「ママ、丸見えになってますよ」
 二十代後半の当時のSМクラブとしては若いママは、背は低いが、均整のとれたプロポーションで、細身でありながら胸は大きかった。そして、その胸も、いや、さらにその下の黒い繁みの部分も白の短いキャミソールの下に見えてしまっていたのだ。
「いまさら何を言ってるのよ。もう、見飽きたでしょ。それとも、ムラムラして、抱きたくなったの。いいわよ、奥田さんなら」
 それは抱きたい。しかし、そんなことは許されるはずもない。冗談なのだと分かっていてもドキドキさせられた。ドアがノックされ、コスチューム姿の、こちらは長身の女王様がコーヒーを持って入って来た。
「今日、取材してもらう女王様ね。黄金プレイが出来るのよ。奥田さん、体験して行く」
 それも冗談なのだ。分かっているが、やはりドキドキさせられていた。あの頃、すでに筆者は三十歳を過ぎていた。年下の女だったのだ。それにいいように弄ばれていたのである。
 不思議なSМクラブだった。いや、不思議な喫茶店だった。その二階では、SМプレイが行われ、スカトロプレイさえあったのだ。そんな如何わしいものが存在していいのだろうか、と、そう思ったが、その店は意外なほど長く続き、最後は、SМよりも、レストラン業のほうが儲かるし忙しいという理由でなくなるのだった。
 喫茶店のお客が、二階のことを認識していたのかどうかは分からない。ただ、もし、それと分かっても、そんな喫茶店を許容してしまうような街があり、そんな喫茶店を許容出来た時代があったのだと思う。
 街には怪しさも如何わしさもあったのだ。だから都会は面白かったのではないだろうか。違うのだろうか。
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