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2023年03月17日16:36

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喫茶店のある街、その9の1

 私鉄の駅を降りてから、少しばかり歩かなければならなかった。駅前にあった短いアーケードを抜けると、大きな道路にぶつかり、そこを渡ると住宅街になった。住宅街は静かだが、古書店があったり、専門書の品揃えが充実した書店があったり、画材道具の充実している文房具屋があったりと、その街は少しばかり変わっていた。学園都市というほどのことはないのだろうが、いくつかの大学があり、学生が多く住んでいたからなのかもしれない。
 羨ましいほどの大きな家や木造集合住宅の中に、上手にスナックや雀荘が組み込まれ、マンションの横には銭湯などもあった。大学が近所にあるのだが、方向が異なったからだろうか学生の姿を見かけることは多くはなかった。
 さらに、そんな住宅街には大き過ぎる緑地公園を抜けると、ようやく目的の喫茶店があるのだった。
 洋食器中心の雑貨屋があり、パスタ屋があり、その少し奥に、二階建ての住宅と思われる家があり、その一階が喫茶店になっていた。出入口というよりは玄関のドアと言うのに相応しいような物があり、その前に少し大きめの雑誌程度の看板があった。知らなければ、とても入れないような店だった。
 窓はあるが、それも、外から見るかぎり、普通の家のリビングの窓にしか見えなかった。
 ガラスのない不透明なドアを開ける。喫茶店なのだから、当然なのだが、何度行っても、ドアの前でインターフォンかチャイムを探してしまうが、そんなものはなかった。自らドアを開けるしかないのだ。まるで空き巣になったような心地悪さを感じるのだが、ドアを開ければ、そこが紛れもない普通の喫茶店であることが分かるのだった。
 カウンターの後ろには、色とりどりのコーヒーカップ。テーブルの長さが二メートルもないと思われるカウンターの上には五台ものサイフォンが並び、コーヒーミルも二台あった。
 そのカウンターの中にいた長身の女性が筆者の顔を見ると、奥を示して「直接に二階にどうぞ。後でコーヒーを持たせますから」と、言った。
 一階は普通の喫茶店。その二階がSМクラブだったのである。
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