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2023年03月13日16:48

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喫茶店のある街、その7の2

 怪しいお客しかいない。大半は性風俗か水商売の関係者のように思えるのだが、その中に、明らかに非合法を商売としているような男たちもいた。そんな店の中において、さらに目立つ男が筆者の前に座っていた。紫のスーツ。ネクタイは分かりやすいアルマーニ。セカンドバックはグッチ。テーブルの上に置かれているのはカルチェのライターにラークのタバコ。髪はショートで金髪。すべてが本物かどうかは分からない。すべてがレプリカの可能性がある。髪も含めて。
「すみませんね。こんな時は酒にでも誘うべきなのに、こんな喫茶店で」
 その男は老舗のSМクラブの電話番だった。店の女の子と出来てしまったのは、よくある話なのだが、その女の子の男がその店のオーナーということになると問題の根は複雑になるものなのだ。
「引っ越しが趣味とか言っちゃってたからね。仕方ないよ。それに、君には、取材の穴埋めとかで、世話になってたしね。もっとも、オーナーも良い人だと思うし、こっちは付き合い続けることになるんで、そこは、ちょっと心配もあるけどね」
「すみません。ホント、すみません。でも、オーナーは怒ってないってことなんで。ただ、それでも、俺が引っ越しに行っちゃったら、やっぱり気まずいですからね」
 引っ越しというほどの荷物はなかった。筆者は会社のバンを借りていたのだが、それに全て積み込める程度の荷物しかなかった。
「それで、どうするの、これから、まさか、他の店には勤められないでしょ」
「山梨の店、決まってるんですよ。俺も彼女も。それで、お礼なんですけど、いくら払えばいいですか」
「お金はいいよ。途中でラブホテルで休憩ってことで」
「それでいいんですか。じゃあ、彼女に電話しときます」
 そんなわけないだろう、と、つっこむのは止めて、素直に否定した。冗談が通じないのだ。彼らは性が軽いのだ。
「お礼はいいよ」
 店の奥で怒声が響いた。ホストらしい男たちが怒鳴り合いをはじめたのだ。店員が静かにするようにと注意したが、収まらない。筆者たちの隣の席にいた水商売らしい二人の女の一人が泣いていた。まるでテレビドラマの舞台の上のような喫茶店なのだ。しかし、それこそが、あの頃の新宿や池袋の深夜の喫茶店の日常だったのである。そして、その舞台の上には、筆者も確かにいたのである。端役ではあったのだろうが。
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