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2023年01月22日15:50

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ヒトラーのための虐殺会議

 ヨーロッパ全土のユダヤ人を完全に絶滅させるための「最終的解決」について15人の軍人・官僚によって話し合われた「ヴァンゼー会議」。
 この作品は1942年に行われた会議の議事録に基づいて作られた、驚くべき歴史の記録であります。

 まあとにかく、驚きますよ。
 同じドイツの、同じナチの「お仲間」のくせに、参集者はどいつもこいつも腹ン中じゃ互いに軽蔑したり疎んじたり牽制し合ったり。同じ穴のムジナどもが時には省利省益を剥き出しにし、時には自己のプライドをあらわにしたりする様はほとんどブラックコメディなんですね。
 特にポーランド総督府次官のヨゼフ・ビューラーが「うちンとこにやたらとユダヤ人送り込まれても困るんだよー。メンドくせえんだよー。責任取れねーよー」と愚痴をこぼしまくるシーンなんて、冗談としか思えません。
 ところがこの作品、そんな喜劇的状況をニコリともせず淡々と、冷徹に描写してるんですよね。ちなみに本作では、劇伴は一切使われてません。エンドクレジットも音楽なし。
 この静けさ、冷たさが、会議の根本にある恐るべき人道的犯罪を見事なまでに浮き彫りにしていると言えるでしょう。

 ユダヤ人に対する最終手段に対し、実は異議を唱えた者が2人おりました。
 1人は内務省次官のウィルヘルム・シュトゥッカート。
 彼はユダヤ人とドイツ人のハーフやクォーターをどうするのか、100%ユダヤ人でない者まで殺すのか、と、厳密さを欠く隔離・最終処分案に反対します。
 もう1人は首相官房局長のフリードリッヒ・クリツィンガー。
 彼はかつての従軍経験から、無抵抗な者への残虐な殺戮行為は兵士に精神的苦痛を与えるがその後遺症のリスクはどうするのかと一同に問いかけます。
 ところが、です。
 シュトゥッカートは代案として「断種」を提示するんですね。
 流石にアーリア民族の血が入ってるのを殺すのはマズいじゃん。だったら去勢・不妊手術を施して「自然消滅」を図ればいーんじゃねーの?というわけです。
 クリツィンガーの方も、射殺でなく、かつてT4作戦で使われたガス室方式による大量処分法を提案されるや「あ、それだったら現場の兵隊も直接手を下さなくていいからストレスねーわ。じゃあ問題なし」と、あっさり前言を撤回してしまうのです。

 要するに、件の会議に集まった連中は、それぞれの思惑はあっても最も肝心な部分では一致していたのです。
 ヨーロッパにいる1100万人のユダヤ人を根絶すべし。この一点において。

 ここまで残忍で邪悪な会議が、近代のこの世界の中で存在したということに、恐怖を感じずにはいられません。
 本作には彼らナチの蛮行を直接見せるようなシーンはなく、叫び声も罵言も全く聞かれず、ひたすら静かな話し合いのみが描かれています。
 それがかえって不気味で、恐ろしいのです。
 地味な作品ですが、多くの方々に観ていただきたいです。
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