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2021年09月26日15:43

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ドラゴンとガメラ、その4

 テーブルの上を片付け、洗い物をして、コーヒーを淹れて戻ると、ドラゴンとガメラはすっかり意気投合しているようだった。その様子は、ギャオスのときのそれとは違っていた。江戸の風情についてガメラが熱く語っている。ドラゴンも、それに興味があるようで、話は歌舞伎からはじまり、萬屋錦之介の宮本武蔵にいたっていた。江戸と言えば江戸なのだろうが、その映画は昭和のものだ。そのあたり、実際に江戸時代にも生きていたはずのガメラなのに、ガメラは、どうしても、少しずれているようなのだ。
  歴史考証は、ドラゴンの得意とするところのはずなのに、ドラゴンは、歴史の事実よりも、ガメラの偏った、いや、間違った歴史観のほうが好きになったようだった。
「決闘も儀式なら、自死でさも切腹という儀式があるんだ。だから武士はすごいんだよ。そして、武士と言えば、宮本武蔵であり拝一刀なんだ。そして、その両方ともが萬屋錦之介なんだぞ」
「本当か。それは凄い人だなあ」
 いや、それは役者だからで、それを言うなら、もっといろいろな役をやっているし、そもそも、萬屋錦之介は武士ではないぞ、と、筆者は思ったが、そんなことも知っていて、ガメラも、また、ドラゴンもその話を楽しんでいるのだろう、と、それを指摘するのは止めておいた。それは無粋な行為になってしまうのだろうから。
「コーヒーが入ったぞ」
「ああ、凄くいい香りがしていたから分かっていたよ。な、ガメラ」
 ドラゴンはガメラの前にこちら向きに座っていた。そして、振り返りながら、ガメラを見上げて、そう言った。
 その姿に一瞬、筆者は「ちゃん」と、言って乳母車から父拝一刀を見上げる大五郎を見てしまった。しかし、この二人が一刀と大五郎だったら、柳生一族は一日で全滅していたことだろう。いや、江戸幕府そのももが一日で滅亡していたかもしれない。そして、それでは、ガメラの好みの話にはならなっていなかったのだろう。
「いい香りだ」
 ガメラがコーヒーカップを手に話を中断して言った。ドラゴンも話を中断してコーヒーの香りを堪能しているようだった。
「栄養などない。必要などない。今、これを飲まなければならないような理由もない。そんな不必要に執拗なまでに拘り、徹底した面倒な淹れ方をする。たかがコーヒーだ。たかがコーヒーにそこまでするから地球は面白いんだ」
 ガメラがドラゴンに言うと、ドラゴンは、そのやや三角とも思える頭を思いきり縦に振っていた。ドラゴン、やっぱり可愛い。
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