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2021年09月22日17:12

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ドラゴンとギャオス、その6

「お前、そろそろ帰るんだろう」
 ドラゴンは、すっかりギャオスに懐いていた。おそらく、欲しい物を気前よく買ってくれるところが気に入ったのだろう。そして、最初こそドラゴンの圧倒的な力を恐れたギャオスだったが、いつの間にか、ドラゴンを愛らしい守るべき生物として認めてしまっているようだった。見た目のイメージというのは恐ろしいものである。
「ああ、地球が平和だと、俺は、まさに、不必要な存在らしいからな。その上、地球上の職業は作家だろう。しかも、娯楽小説。そんなもの、要らないと言われたら、それまでなんだよ。宇宙生命はたいていそうだと思うけど、別に、食べ物を作るわけでもないし、道路や橋を造るわけでもないだろう。何だか地球の邪魔者って感じなんだよなあ」
 愛らしいドラゴンをその見かけよりも柔らかな羽根で遊ばせながら、ギャオスは寂しそうに言った。寂しいのはドラゴンと別れて帰ることではなく、自分など地球に不必要だということによるもののようだった。
「この宇宙に、尊い仕事というのがあると思うのか」
「そりゃ、あるだろう。娯楽なんて、なくてもいいんだろう。地球の危機だってときに、娯楽は必要ないだろうからな」
「本当にそう思うのか。それこそ、お前は寂しいヤツだな。知性のある生き物は単純じゃないんだ。どんな悲惨な中にも笑いが必要だったり、どんな苦しいときでも歌ったりするものなんだよ」
 筆者は、ある友人のことを思い出していた。その友人は、闘病生活の中、酒を止めるぐらいなら、苦しんで死ぬほうを選ぶ、と、病院のベッドで笑っていたのだ。
「もしかして、ドラゴンにとって命より大事なものは知識だとか」
 筆者はドラゴンに尋ねた。
「当たり前のことだろう。地球では金属に情報を収納するんだけどな。俺たちの星では石に情報を入れるんだよ。ドラゴンが宝玉を守ると地球のメルヘンで言われていたのは、そうした理由によるものだと思うぞ。つまり、俺たちドラゴンが守っているのは、宝石じゃなくて知識だってことなんだよ。そして、ギャオス。お前の娯楽小説も、また、一つの知識なんだよ。知のないところに悦楽はない、娯楽のないところに教養はない、お前は、地球という歴史の中で絶対に必要な存在なんだよ。ああ、お前の、小説はくだらないけどな。まあ、それだって、必要としている人はいるんだろう。だから、売れているんだろうからな」
 ギャオスは窓を開けた。その開け方は元気がいっぱいという感じに思えるものだった。
「次に来るときには、たくさん果物買って来るからな。そうだ。果物もいいんだけどな。地球には、果物を加工した食べ物もたくさんあるんだよ。ケーキとか、ゼリーとか、ああ、そうだ。少し違うけど和菓子ってのも美味しいんだぞ」
 そう言って、ギャオスは夜の空に飛び立って行った。
「ギャオス、たくさん、お土産買って来るって。あいつ、本当にいいヤツなんだな。書いてる小説はくだらないけど」
 ドラゴン。そんなに性格は良さそうではないな、と、鈴で遊ぶ彼を見て、筆者は、そう思った。
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