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2021年09月21日15:30

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ドラゴンとギャオス、その5

「ところで、ギャオスは、ドラゴンを見に、わざわざ来たのか。何か用事があったんじゃないのか」
「ドラゴン見に来たというか、ドラゴンの心配をして来たんだよ。こんな狂暴な力が来たなんて思わなかったからな。まあ、でも、それも本当の理由じゃないかもな。本当は、ただ、寂しいから来ちゃったのかもしれない。だって。俺、ほら、地球じゃあコウモリの仲間だと思われているから、この時期、ずいぶんと嫌われてるかと思ってさ。飲みにも行けなければ、旅行も自由に出来ないから、行くとこないんだよ」
 ここはいいのか、と、思ったが言うのは止めておいた。行き場を失うというのは寂しいものだろうから。しかし、その話がドラゴンには分からないようだった。
「一人でいることは寂しいことなのか」
「そりゃ寂しいだろう。お前だって寂しいんじゃないか」
 ギャオスには逆にドラゴンの言うことが分からないようだった。
「今、俺はお前にくっついているよな」
 ドラゴンはギャオスの羽根に背をもたれさせて寛いでいた。
「ああ」
「俺がお前から離れる。これは寂しいのか」
「それは寂しくないよ」
「じゃあ、俺がトイレに行ったら寂しいのか」
「そんなの一緒にいるようなものじゃないか」
「買い物は寂しいのか」
「だって、それは数十分で帰って来るじゃないか」
「お前の寂しいは相手との距離がどれぐらいで、離れている時間がどれぐらいのことを言うんだよ」
「いや、だから、一日とか」
「二十四時間なのか。じゃあ、二十三時間なら寂しくないわけだな」
「そんなこと」
「そんなことが、具体的には分からないなら、その概念そのものにも根拠がないと思わないのか。一分と一時間が違うように、一分と一年も、一億年も違うわけだよな。こことトイレの距離が違うのと同じように、星と星の距離も違うわけだよな。広大な宇宙と悠久の時間を単位の基にしたら、一時間も一年も、たいして違わないし、こことトイレもここと北極との距離もたいして違わないんじゃないかな」
「え、どこに行くんだよ」
「キッチンだよ。寂しいのか」
「いや」
 筆者が何か言おうとした時にはすでにドラゴンはキッチンにいた。
「何しに行くんだよ」
 そのために「行ったんだよ」と、筆者は言い直さなければならなくなった。何しに行ったのかは分かっていた。冷蔵庫を開けに行ったのだ。変わったお客が多いために筆者の家の冷蔵庫は大型なのだが、ドラゴンは、そのドアを開けたまま、しばしば、そこに佇んでいるのだ。最初は、冷房代わりにしているのかと思って注意しようとしたのだが違っていたのだ。ドラゴンは、冷蔵庫を覗きながら、次に食べたい物を選んでいたのだ。そして、今も、何か美味しそうな物はないかと探しに行ったのだろう。筆者にはそれが分かっていたのである。
「だって、そんなナッツだけじゃ、幸せな気持ちになれないじゃないか。ほら、ねっとりとした甘い物とかあるじゃないか。ないかなあ」
「冷たい物ばかり食べてるとお腹に悪いんだぞ。そうだ。ホットケーキを焼いてやろうか」
 言い終わる前にドラゴンは、パソコンの前に高速移動した。何度禁じても彼は、焦ると高速移動してしまうようなのだ。ドラゴンにはホットケーキが分からなかったらしいのだ。パソコンですぐにそれを検索し、ホットケーキの最後に乗せたバターのように蕩けた表情で振り向いた。
「これは、すごい、食べ物だ。アイスクリームを載せたりもするらしいぞ」
「載せてやるよ」
「本当か。ギャオス、よかったなあ。幸せになれるぞ。気てよかったな」
 ギャオスは本当に幸せそうにしているドラゴンが理解出来ないようだった。
「ホットケーキって、そんなに高級な食べ物じゃないだろう。そんな物、いつでも食べられるじゃないか」
「ギャオスはバカだなあ。こいつが焼いてくれて、俺がここにいて、お前がいて、三人で食べるから美味しいんじゃないか。バターたっぷりにしてくれ、とか言って、アイス多めにしてくれ、とか言って、ギャオスが俺は一枚でいいから、もう一枚はお前にやるよとか、そう言うのが美味しいんじゃないか」
 ドラゴンの言うことは、もっともなのだ。しかし、孤独を恐れないドラゴンの、その甘えん坊が演技なのか本気なのか、そこを理解するのは、なんとも難しそうだった。
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