ただの休憩、その５

　価値観というものに挑戦してみたかったのだ。今の世の中でもっとも価値のあるものは命ということになっているのだろうが、そこにさえ筆者は疑問を感じていた。もっとも大事なものが命で、本当にそれでいいのだろうか。そこで世界の平和のために命を懸けて闘うガメラやウルトラマンを出してみたのだ。命を懸けて、ということは、世界の平和はその人の命よりも価値があることになる。しかし、自分がいない世界の平和はないのと同じなのに、彼らは命を捨ててもそれを守ろうとしている
。
　信仰のある人にとっては、信仰は命より価値のあるものなのかもしれない。
　では、命より大事なものは、そんな大仰なものでなければいけないのだろうか。
　命より酒が大事だという人は、いかれているように思われるが、それだって良いように筆者は思う。命より大事なものがないよりは、ずっと良いように思うのだ。
　食べ過ぎて太る。太れば命は削られることになる。では、命のために美味しいものも食べずに我慢して、それでいいのだろうか。美味しいものを食べるために健康を犠牲にする人がいる一方で、美しい体型のために美食を控え、無理に減量する人もいるから世の中は面白いのではないだろうか。
　命より大事なものがある人に、命こそがもっとも大事なものなのだ、と、そう強制するのはどうなのだろうか。
　確実に長生きが出来る牢獄があるなら、そこに人は入りたがるのだろうか。そこが筆者には分からないのだ。少なくとも筆者は嫌だ。牢獄で長生きするぐらいなら、自由に生きて早死にするほうを選ぶ。これはそんなに特殊な考えではないと思うのだ。
　ところが、世の中は命を最上としている。長生きのためには、どんな楽しみも、どんな自由も犠牲にしていいとしているのだ。
　ゆえに、宇宙生物たちには、自分たちの命よりも大事なものを抱えさせてみたのだ。ほんの遊びであり、ほんの皮肉でそれをさせてみたのだ。
　健康と健全が最上であるという考えに、少しだけ抗ってみたかったからだ。
　ガメラは地球の子供を守るという使命を持っている。それは使命だから命より大事なのだ。ところが、そのガメラが「俺はガキが嫌いだ」と、言ってしまう。筆者は、そういう人が好きなのだ。命より大事なものなのに、平気で嫌いと言える自由さ。価値観なんて、そんなものだったのではないのだろうか。