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2021年09月04日19:30

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ドラゴンとアイさん、その3

「なるほど」
 アイさんが筆者に歌舞伎の坂東玉三郎の霊験は、もはや自分より強いというような、あまり意味の分からないような話を聞かせていた間、ドラゴンは、筆者のコーヒーを大事そうに飲みながら筆者のパソコンをいじっていた。
「ドラゴンちゃん、あ、ドラゴン、どうかしたの」
 ドラゴンはコーヒーカップを両手に大事そうに抱えたまま振り返った。それでもパソコン操作は続けている。さっきまでアイさんが与えた鈴にじゃれついていた尻尾でマウス操作もキー打ちさえも出来るのだから、やはり、ドラゴンという生物は凄いものだ、と、筆者は驚いた。
「お前ら、二人で嘘を言ったんだな。フランダースは素敵な犬だが英雄じゃなかったぞ。それに、しばらくこの星に来ない間に、この星は頭の悪い者を英雄扱いしているな。なんだ、ドラゴンスレイヤーって、本当に頭が悪い」
「お芝居なんて、そんなものなのよ。現実をそのまま語っても、そんなものつまらないから忘れられてしまうでしょ。嘘、大袈裟が楽しいのよ。斬り合う前に歌い合う人はいないのよ。唄っている間に斬っちゃうでしょ。でも、いいのよ。ドラゴンは、深く考え過ぎなのよ。地球人って言うのはね。時に事実でないものを楽しむ生き物なのよ」
「おい、ドラゴン、鈴、鳴らしておかないと、悪いことが起こるんだぞ。大丈夫か」
「え、そんなこともあるのか」
 ドラゴンがパソコンから尻尾を離し、鈴を探った。
「嘘よ。鈴で来ないのは熊ぐらいかな。熊はここには来られないしね。それに、熊ぐらいドラゴンは怖くもないんでしょ」
「あ、ああ、熊は知っている。この大きさでも俺とは勝負にならないよ。基本的なスピードが違うからな。あ、そんなことより、お前、また、騙したんだな」
「騙したんじゃないのよ。彼は遊んだのよ。でもね。その遊びの中には、いろいろな意味があるのよ。ドラゴンが、あまりにも調べものに熱中してしまうから、少し息を抜かせたいとか、寛ぐことの大切さを理解してもらいたいとか、全てを理論で考えない余裕を持って欲しいとか」
 そんなことは筆者は考えていない。ただ、ドラゴンをからかうのが面白くなっただけだ。しかし、それはドラゴンには分からない。筆者の膝にふわりと飛び乗り、筆者を見上げて「お前、いいヤツなんだな」と、言った。そして「お前には、頭を撫でることも許してやるよ。本当はすごく嫌なんだけどな」と、言った。
「まあ、素敵、じゃあ、私にもさせてくれる」
「ああ」
 ドラゴンは筆者がその被毛のある二等辺三角形の頭を撫でようと手を伸ばしたときには、すでにアイさんの膝の上にいた。アイさんいは実態がないはずなのに、ドラゴンはその膝に乗ってアイさんに頭を撫でられていた。壁を平気ですり抜けるのに、コーヒーは飲めるし、ドラゴンを撫でることも出来るのだ。いや、そんなことに感心している場合ではない。
「お前、ちょっと、酷いんじゃないか」
 アイさんの膝の上で腹を上にしてゴロゴロと喉を鳴らすドラゴンに筆者は言った。
「だってさあ。アイさん、柔らかいし、いい匂いするんだよ。お前の膝は硬いし、手もゴツゴツしているだろう。それも嫌じゃないから、アイさんがいないときは、お前の膝にも乗ってやるよ」
 ドラゴン、けっこう調子がいい。学びが早いだけに、すてに、地球のいい加減さを学んでしまったのかもしれない。
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