「すばらしき世界」〜生きづらさと優しさと

これまでオリジナル脚本にこだわってきた西川美和監督が、小説をベースとした作品に初めて取り組む。原作は昭和に実在した人物をモデルとした佐木隆三著「身分帳」。時代設定を現代に置き換え、人を殺め13年の刑期を終えたあと、社会復帰すべく日々もがく男・三上正夫を描いていく。主演は初の西川作品出演となる役所広司。

すっかり変わってしまい、生きづらさばかりが身に染みる13年ぶりの社会生活。それでも身元引受人の保護司夫婦、一見クールな行政の生活保護担当者、そして同郷出身のスーパー店員、三上をとりまく周囲の人たちは誰しも優しく温かい。ただし興味本位で接近してくるTV番組の制作者もいたりするから現代社会というのはやっかいだ。

さしたる大きな謎解きがあるわけでもなく、複雑な人間関係や伏線が提示されるわけでもない。それでもぐいぐいと三上のゆくえに気持ちが吸い寄せられるのは、やっぱり役所広司の卓越した演技力にあると思う。誠実に見える三上がふとした拍子にヤクザの血が騒ぎやがてヒートアップ、この微妙な加熱具合は彼の表現力があってこそ。

ひさびさにシャバに出たら世の中はすっかり.…という設定はくしくも公開中の「ヤクザと家族 The Family」と同じ。生きづらいイマの日本社会を照射するには、ヤクザの目というフィルターを通したほうが効果的ということか。ただタイトルに関しては、深読みしすぎるのかスッキリしないまま。ぜひご覧になって考えてみてください。