語れる服を語る

かっての私にとっての最大の担当取引先だった高級紳士服メーカーが、この11月末をもって解散したと聞き、ショックとともに感慨にふける日々が続いている。倒産ではなくて解散、つまり対外的にはすでに5月に告知、半年かけて取り扱いブランド事業継続の調整を図り、社内的には全従業員に十分な退職金を確保したうえでの決断だと。

企業整理の専門的な区分けには詳しくないけれど、このソフトランディングぶりはいかにも堅実なあの会社らしい。もちろんコロナ不況が最後の一撃だったと思うけど、世の中のカジュアル化でスーツ人口が減ったと言われてしばらく、仮にコロナがなくてもかなりの危機的状況だったはず。すでに同業他社はいくつも店じまいしてるし。

同じ大学出身、かわいがってもらった社長は英語堪能、お酒NGそしてグルメ。海外デザイナー来日時の接待などは、随行者の私はニコニコとだけしていれば済むので大いに助かり、9時になればサッと帰る社長は海外勢にも評判が良かった。私が人生で訪れた高級有名店が10あるとすれば、おそらく3〜4店は社長を交えた会食だろう。

かってこの会社はイメージキャラに中村敦夫・沢田研二・辰巳琢郎を起用、とくにジュリー起用時はテレビCMも流していた。とにかく私を育ててくれた会社、時の流れと言ってしまえばそれまでだけど、ここは声を大にしてお疲れ様でした、たいへんお世話になりました、ありがとうございましたと言いたい気持ちでいっぱいなのである。