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2020年12月08日00:04

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アイさんもですか、その4

「美味しい。やっぱり、いけ好かないけど、コモドの旦那のコーヒーは美味しいわね。まあ、貴方の淹れ方もいいのよね。コーヒーはそれがないとね」
 アイさんはコモドオオトカゲの男尊女卑に、いつも腹を立てている。そこまで嫌いなら、彼の持って来るコーヒーを飲まなければいいようなものだが、それは、しないばかりか、美味しいとあっさり認めてしまう。そこが面白いのだ。
「燻製肉も来てますけど、コーヒーの後は、赤ワインにしますか。あまり高い物はありませんけど、安いわりに美味しい赤ワインがありますけど」
「いいわねえ。燻製は美味しいのよねえ。さすがはコモドオオトカゲの血をひくだけあるわよね」
 アイさんはコモドオオトカゲのことをトカゲと認識したり、地球上のファンタジー生物と認識したり、宇宙生命と認識したり、そこはその都度、都合の良いものとして認識してしまう。ただし、ドラゴンの末裔とだけは認識することがない。
「そういえば、コモドの旦那も、ずいぶんと、ご無沙汰ですけど、まさか、あの旦那が本気でウイルスを怖がったりはしていないでしょうねえ」
「強がりがネクタイしたような男なのに、怖がったりしないわよ。仕事が忙しいらしいわよ。しかも、地球のじゃなくて、彼の国のね。国がどこにあるかは知らないけどね。国なのか星なのかも分からないしね」
「仕事してたんですね」
「知らないわよ。政治に関係してるって言ってるけど、それも怪しいものだしね。あのトカゲは嘘しか言わないから。私は男尊女卑だって言いながら料理はするわ、掃除はまめだわ、この前なんて、私の前に水たまりがあったら、自分のジャケットをそこに置こうとしたのよ。少女漫画かよって感じよね」
 少女漫画と言っても、それは昭和の少女漫画ですよ、と、言おうとしたが、アイさんが怖いのでそれは言わずにおいた。
「紳士なんじゃないですか」
「紳士はいいけど、私、幽霊よ。水たまりで濡れるわけないじゃない。コーヒーは飲めるけどね」
 そう言ってアイさんはカップを逆さにして振った。ようするにワインの準備をしろという催促なのだろう。その尊大な振る舞いの中に、虐げられた女性の片鱗を見ることは出来ない。
「しかし、仕事なら、仕事ってギャオスにも言ってあげたらいいのに、ウイルスが怖いからギャオスには会えないというようなことを言うから、ギャオスがいじけちゃうんですよねえ。困ったものです」
「あのね。トカゲ、コモドの旦那はね」
 この人称の仕方でアイさんがコモドオオトカゲの悪口を言うのか言わないのかが分かるところも面白い。
「アイさんと同じで、ギャオスのために」
「そういうこと。私は面白いからだけどね。コモドの旦那はわりと本気で、ギャオスしっかりしろって思っているのよ。貴方、バカだから気付いてないと思いますけど」
「バカは認めますから、私をバカにする時の丁寧語は止めてくださいよ。余計に惨めになりますから」
「そのぐらいの感性はあるのね。まあ、いいわ。あのね。ガメラもギャオスもウルトラの開発のペンみたいなので人間になるじゃない。コモドの旦那はあれを使わないのよ。どこに行くのにもトカゲのままなのよ。たまに芝居をするときは別らしいけどね。つまり、ガメラやギャオスは人間の仲間になりたいわけよ。でもね。旦那は人間と付き合うだけで仲間になろうという気持ちはないのよ。仲間になりたいから孤独になるの。ところが旦那は最初から自分がコモドオオトカゲであることに誇りを持っているから、仲間にしてもらいたいなんて思いがないのよ。孤高に立つ者を仲間外れには出来ないし、自らに誇りのある者を差別も出来ないものなのよ。まあ、その根拠のない自信が私は嫌いなんだけどね」
 差別されているという訴えが差別を生むというのは、確かにあるような気がする。しかし、そう訴えなければ差別されたままになる、そんな気もするのだ。
「あ、すみません。アイさんの好きな深川の佃煮があります。忘れてました」
「忘れちゃだめじゃない。さっさと出しなさいよ。あれは意外とワインに合うんだから。とこで、貴方、バカだから、差別を訴えれなければ差別はなくならないし、差別を訴えることで消えようとする差別が復活してしまう、それは矛盾だ、とか考えたでしょう」
 図星だった。幽霊は人間の心の中を見ることが出来るのかもしれない、と、そう思った。
「見えないわよ。心の中なんか」
 見えている。違うだろうか。

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