「М女を見ると腹が立つんだよ。頭にくるんだよ。絶対に許せないと思って、それで、興奮しちゃうんだよ。でも、興奮は性的な興奮になるんだよ。もし、性的な興奮がなかったら、俺は、ちょっと、ヤバイかもしれないな」
あの頃、彼は二十代の後半だった。背は高くもないが低くもなく、痩せていたがダンサーのような痩せ方で、決して貧弱なそれでもなく、長い髪を後ろで束ねるのが似合う、どちらかと言うとモテるタイプの男だった。
それを利用して彼は、エロ雑誌やエロビデオに女の子をモデルとして派遣する仕事をしていた。ようするにもぐりのプロダクションというものだ。
可愛い女の子も多く所属し、彼はわりと儲けていたはずだった。彼に仕事を入れるエロビデオ屋の立場である筆者にも、彼は酒を奢ってくれた。しかし、それは仕事欲しさの営業とは、少し違っていたように思う。ようするに、彼は筆者と遊びたがっていた、と、筆者には、少なくともそう思えた。しかも、怪しい遊びを。
だからといって、彼が筆者を気に入っているということでもなかった。そこが少し変わっていたのだ。
ようするに、筆者は彼の暴走のストッパーとして便利だったのである。筆者はどちらかといえば常識的で、臆病な性格であるから、行き過ぎるということをしない。依存症の反対にいるのだ。のめり込むと冷めるのである。
彼は自ら女の子をナンパし、そして、モデルとして所属させることが出来そうにないと、筆者に電話をして来た。三人で遊ぼうというのである。二人で遊べばいいのに、わざわざ筆者を呼ぶのだ。SМがしたいけど縛りが苦手というのもあったのかもしれないが、何よりも、自らの暴走が怖いから筆者を誘ったのだと、思う。
そして、いつも、案の定、彼は暴走するのだった。
鞭が止まらない、スカトロも限界を超える、野外露出させた女の子を全裸のまま捨てて、このまま帰りたい、と言ったこともあった。それでは事件になってしまう。
その度に筆者は、セックスしたくなったと理由をつけたり、俺を巻き込むつもりかと説得したりした。お前の身を考えてという説得は聞かない、しかし、筆者に迷惑だとか、筆者の性欲のため、と、そう説得すると、不思議とそれは聞いてくれた。
そんな彼の昔話を聞かされたのは、彼との付き合いがはじまって五年も後のことだった。
ログインしてコメントを確認・投稿する