いやあ、またしても邦画の好作だ。『ひとよ』と同じファミリーストーリーで、しかもその後に観ただけに、なおさら胸に響くものがありました。
東京でカメラマンをしている東麟太郎(染谷将太)は、父の日登志(永瀬正敏)の葬儀のために故郷に帰ってきた。姉の美也子(戸田恵梨香)と共に通夜の準備を進める中、母のアキコ(斉藤由貴)が通夜ぶるまいの弁当を勝手にキャンセルし、自分で作ると言い出す。
母が最初に運んできたのはなんと目玉焼き。
しかし麟太郎と美也子にとって、その目玉焼きは父が作った思い出深い料理だった。
母が次々に振る舞い、時には手伝いながら出されていく手料理の数々は同じように家族の歴史が込められていた。父の遺言とはまさにそれだった。次々に去来していく家族の記憶.
まず面白いのは、いきなりお通夜から始まり(正確には父が臨終を迎えた病院からだけど)、父が他界したこと以外に、観ている我々は家族の内情が掴めない。
それが麟太郎と美也子それぞれ思いで明かされるだけでなく、家族全員も俯瞰しながら(いわば「神目線」)少しずつ明かされていく。
その中には、ふたりが初めて知ることもあれば、「観客」である我々だけの場合もある。この重層感が上手いし面白い。
ふたりには「シュン」というアキコの連れ子の兄が居る。彼は行方知れずだと思いきや、そこにも2人が知らない隠された事情があった。
まさに家族は謎だらけ。しかしそれは、ごくごく当たり前のことなんですよね。家族同士の出来事、それぞれの思いを皆んな開示して共有するなんてぜったいあり得ない。悪気がなくても秘してしまう事はたくさんある。
後から打ち明けられることもあれば、ずっと気がつかないこともある。
そして、麟太郎も美也子も、いや、シュンも含めて3人それぞれの人生を歩んで、それぞれに物憂い事情も抱えている。
葬式、お通夜とは故人が家族を引き寄せ、追憶させるだけでなく、リセットも出来る場ではないか。
巣立って、集まって、また散っていく。家族とは、なんと不思議な共同体なんだろう。
それを暖かくも、落ち着いたトーンで観せてくれた監督の常盤四郎氏はなんと本作が初長編作。脚本もオリジナル(しかも構想7年というから、『四十九日のレシピ』の翻案では決して無いだろう)
これはまた楽しみな人材が世に出たと思った。
【予告編】
https://youtu.be/yZiupR6PUQ8
全員が好演なのだけど、とりわけ戸田恵梨香がチャーミング。いやいや喪服姿だから・・・というわけじゃないですよ(笑) こんなにも堂々とした演技力があったのかと。
でもやっぱり喪服は3割増しか?(笑)
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