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2018年12月10日00:59

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午後一時のエロ本屋

 午後一時も筆者はエロ本屋だった。
 男の編集者やライターとの打ち合わせは、たいてい、撮影前の集合場所になるような喫茶店をそのまま使用していた。十時の集合からバタバタと出たり入ったりして、十二時から一時ぐらいまでは、喫茶店の外にいて、一時にもどって行くのだ。迷惑なお客ではあるが、その時点でコーヒーを三杯も飲むのだから、いいお客でもあったわけなのだ。
 しかし、女の子との打ち合わせは、少しだけ場所を変えたものだった。撮影集合場所の分かりやすい喫茶店の前で落ち合い、少し奥に入った大きな喫茶店を利用するのだ。午後一時の大型の喫茶店であるから、いくら新宿でも、周囲に会話を聞かれない席がとれる。それがどうということではない。もともと、他人の会話に興味があるような人は新宿駅の周辺になどいなかったのだから。
 若い女の子のライターや編集者とマニアックなビデオや本の企画の話をする。それだけでドキドキしたものだった。
 そういえば、筆者は、プライベートでは女の子相手に会話も出来ないくせに、打ち合わせとなると饒舌なものだった。おかしなものである。映画の話やグルメの話、スポーツの話のほうが気楽なはずなのに、打ち合わせであるところのセックスの話、緊縛の話、野外露出の話、スカトロの話のほうが気楽に出来たのだ。
 最近では、そうしたマニアックなエロ話に、女の子たちは慣れている。性が解放されているからなのだ。しかし、あの頃は、慣れていない。女の子は男の前でトイレという言葉を口にすることにさえ抵抗があった時代だったのだ。そんな時代が日本にもあったのだ。そんな女の子相手に、アソコの大きな男優だけを集めてアナル処女の女の子に相手をさせようとか、野外で全裸にして緊縛し、スタッフが少し逃げてみようとか、そんな打ち合わせをするのである。
 午後一時。外にはショッピングに来た普通の主婦やOLが歩いていた。まだ、時間的に酔っ払いもいなければ、明らかに危なそうな男も歩いていない。そんな平穏の中で、ガラスを隔てたこちら側で、ワイセツ用語が飛び交わすのだ。しかも、相手をしているのは若い女の子。
「この役、ボクがやりたいんだけど、これって、やっぱりアソコが大きくないと絵にならないよなあ。ボクのじゃあ、ダメだと思うでしょ」
 撮影でそれを見せたことのある女の子に、あえて、必要のないそんな質問をしたりする。いくらエロ業界の女の子とはいえ、製作サイドにいる女の子はいささか純情で、そんなことない、とか、男優さんのが大き過ぎですから、とか、そんなに小さくないです、と、それこそ、しどろもどろの言い訳けをしてくれる。それが楽しかったのだ。
 あの頃はどこの出版社も小さく、ビデオ製作会社にしたところで、事務所スペースをかろうじて確保している程度だった。出版社に会議室があったり応接室があったりするような会社は、そう多くはなかったのだ。ゆえに、ちょっとした打ち合わせも喫茶店でしたものだったのだ。そして、打ち合わせを理由にして筆者たちは、女の子との会話を楽しんだものだったのだ。おかしなものだ。撮影や体験取材として、あらゆることをやっていたのに、それは、どうでもよくなっていた。それよりも、午後一時に、若い女の子とこそこそと喫茶店でするエロ話が楽しかったのだ。それこそがエロ本屋の特権だとさえ思っていたのだ。
 そのくせ、カメラマンや男優のように、女の子を飲みに誘ったり、ホテルに誘うなんてことが出来なかったのだ。エロ本屋とはそんなものだったのだ。そんな卑屈で暗い変態だったのだ。しかし、だからこそ、あの頃のエロ本もエロビデオも面白かったのではないだろうか。
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