mixiユーザー(id:2938771)

2017年11月28日17:09

99 view

時代に埋もれた喫茶店(その6)

 横浜のSМクラブは多くなかった。多くないのに、どの店も家庭的だったように記憶している。京急の駅にあるSМクラブは、さらにその特徴が濃くなったようにも記憶している。
 そんな店の中に、SМクラブの名前は平凡だったのが、筆者が勝手に家族ごっことあだ名していたSМクラブがあった。そして、実際、その店で、家族プレイというのをコースとして入れてもらったこともある。娘と遊んでいると母親が来て叱られるという設定。娘の同級生がその母親と遊ぶという設定。近親相姦。そうしたプレイがとにかくリアルに体験出来る店だったのだ。
 その近くに、ジャズ喫茶のような普通の喫茶店があった。ジャズ喫茶ではなかったのだ。しかし、店の壁には古いジャズのレコードジャケットが貼られているし、ジャズしかかかっていないし、カウンターにはブルドックのジャズ奏者たちが並べられていた。小さな店なのにスピーカーはやたらと大きかった。
 横浜の店で取材があると、少し遠出になるのに、わざわざその喫茶店まで行って取材記事を仕上げたものだった。
 その店で珍しくお客が誰れもいないとき、筆者はマスターに自分はジャズが分からないんだけど、分からない自分が最初に聞くべきジャズって何ですかねえ、と、尋ねたことがあった。そのとき、彼は笑いながら、こう答えたのだ。
「さあ、私、ジャズって嫌いなんで分かりません。コーヒーは好きなんですけどね。ジャズは嫌いなんです。でもね。コーヒーを美味しくする音楽はジャズかなってね。そう思ってこうした店にしているだけなんですよ。好きなのはアイドルものでね。家では麻丘めぐみとか聴いてるんですよ」
 それじゃあ、筆者と同じじゃないか、と、そう思った。良質な偽物だったというわけだ。そして、筆者の大好きな偽物だったのである。
 そういえば、横浜のSМクラブの女の子たちは家族に縁の薄い女の子たちだった。ゆえに、事務所や待機室ではニコニコと家族ごっこしているのに、誰れもいなくなると暗い顔にもどるのだった。筆者はときどき、そのもう一つの顔を見せられることになったものだった。絵空事のSМクラブだったのである。だから筆者は好きだったのだ。
 しかし、絵空事だったからだろうか、今は、それが本当に存在していたのかどうかさえ分からなくなってしまった。あのジャズ喫茶のように思えた、ただの喫茶店とともに、どちらも、本当は最初から存在していなかった、そんなようにも思えてしまうようになってしまったのである。
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年11月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930