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2017年11月22日16:00

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時代に埋もれた喫茶店(その2)

 麻布にはSМクラブが多くあった。しかし、麻布近辺の喫茶店には油断が出来なかった。三十年近く前のことになるのに、その頃で、すでに、コーヒー一杯が八百円という店が珍しくなかったからだ。うっかり入ると経費が精算してもらえなかったりした。その頃、六本木麻布近辺にはファミレスなどなかった。なかったと筆者は記憶している。
 一杯、八百円のコーヒーを出す店なら、二時間いて原稿を書いていてもいいように思うが、逆なのだ。そうした店には一時間といられなかったりするのだ。不思議なものだ。
 そういえば、やはり麻布に、不機嫌なSМクラブがあった。妙に威張ったオーナーがやっている、ごく普通のSМクラブだった。それといって特徴もない。あの辺りの店の女の子には美人が多かったので、その中では女の子も普通だった。
 取材を申し込んでも、いつも不機嫌で面倒そうに彼は応じていた。それでいて、断ることはしなかった。
 麻布の他のSМクラブを取材したときには、とりあえず恵比寿まで移動して、そこで喫茶店に入り、記事を仕上げていたのだが、どうしてだが、その不機嫌なSМクラブを取材したときにかぎって、一杯八百円もする喫茶店を利用していた。
 店内に特徴と言えるほどのものもない。茶色を中心とした落ち着いた雰囲気の喫茶店らしい内装なのだが、落ち着きはしなかった。店内では、なぜか、全員がひそひそと会話をしていた。音楽喫茶ではない。そもそも、会話が邪魔になるような音楽を流しているわけでもなかった。ただの有線放送だと筆者は思っていた。しかもジャパニーズポップスだ。
 一杯八百円のコーヒーなので、どうしても、そこで記事を仕上げたかったのだが、いつも、何も書けずに店を出ることになった。それでも凝りずに、筆者はなぜかその店に入った。三十分ほどぼんやりとして、後悔しながら高いコーヒー代を支払ったものだった。
 不機嫌なSМクラブの不機嫌なオーナーが一度だけニコリとしたことがあった。
 新人のМ女を取材した後、筆者が「お尻の臭いが好きって、面白いマニアが入りましたね」と、言ったら、彼は「嗅がせたんですか」と、尋ねた来たので「遠慮しました。恥ずかしいですから」と、筆者は答えた。すると彼は「私もそう思うんですけどね。でも、お客さんには、そこがいいみたいなんですよ」と、そう言って笑ったのだ。それが、たった一度だけ見た彼の笑顔だった。
 先日。麻布に行ってみた。不機嫌なSМクラブも、筆者がコーヒーを飲んだ喫茶店も、どちらも見つからなかった。本当にあれば麻布だったのだろうか。
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