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2017年11月01日14:57

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封印したルポ(その2の2)

 一流といわれるところのシティホテルのスイートルーム。そこで行われるパーティ、参加者の到着時間は、厳密に指定されているらしかった。早すぎても遅すぎてもいけないと彼女は言っていた。ホテルでのパーティなど許されているはずもなく、当然だが、秘密で行われるのだ。そこに四人とか五人が一度に部屋に入ったり、連続で同じ部屋に出入りしていたりすれば、すぐに怪しまれるのだ。
 もちろん、これも昔のことで、最近は、さらに厳しくなっていて、そうした注意を払っても、なかなかホテルでのパーティは難しくなっているそうだ。
 指定された時間は午後五時二十分。来客は二十分以上の間隔を置いて部屋に行くような仕組みになっているらしかった。
 部屋はノックしない。ドアをガチャガチャとやっていると、中からすぐにロック解除の音が聞こえて来る。ドアのところに男が立ったままで待っていたのだ。
 六時から沈黙すると言われていたが、すでに一言も発しない。緊張した。筆者を誘ったSМクラブのМ女は筆者の腕にしがみついている。まるで本物の恋人のようだった。たいして可愛い女でもなかったが、この瞬間には、何だか愛情のようなものを感じてしまった。この女を守らなければ、と、そんな錯覚を持たされてしまったのである。
 彼女と二人、バスルームに案内された。シャワーを浴びるらしいが、そこでも、いっさい会話をしてはいけないと言われていたので、筆者も必死にそれを守った。いっさいの会話のないまま女とシャワーを浴びたのは人生でそれ一度だけだった。しかし、会話が許されていないというのは面白いこともある。石鹸をつけて彼女の身体を洗い、その部分に指を這わせても彼女はそれを否定出来ないのだ。下手に逆らえば筆者が口を開くかもしれないからだ。
 シャワーを浴び、彼女が用意してくれたバスローブを羽織り、部屋に入ると、すでに数組の男女がバスローブ姿で部屋にいた。
 そのまま、深夜まで、無言の男女がそれぞれのSМプレイをする。普通にベッドでセックスしている男女もあるが、それでも声は出さない。何もせずに、座ったまま、それら男女を眺め続ける男女もいた。どうやら、カップル以外は参加出来ない仕組みになっているようだった。
 会話が出来ないのは拷問のようだった。最初こそ、スリリングな遊びのようでワクワクさせられたりもしたが、一時間もそうしていると、恐怖と不安が苦痛に変わって行くのだ。一緒に行ったМ女は
どこから持って来たのか縄を出して筆者に渡し、バスローブをはらりと落とした。取材では、何度も縛ったことのある裸である。しかし、緊張した。会話のない緊縛は意外と難しかった。それでも、緊縛し、そして、取材対象でしかなかったその裸を筆者は愛した。
 不思議と興奮した。性的な興奮だけではない。本気で愛情を抱かされるのだ。おそらく、会話がないという緊張感が何かを錯覚させたのだと思う。彼女のほうも同じだったのか、何をしても筆者を拒むことはなかった。
 ところが、この彼女。このパーティを最後に、いっさい連絡がとれなくなるのだ。SМクラブも無断で辞めてしまったと聞かされた。筆者のほうは、錯覚とは思いながらも、愛情を感じていたというのに、そのまま、二度と彼女に会うことはなかったのだ。そうなると、何だか、そのパーティ事態が筆者の妄想だったのではなかったのかと、そうも思うようになった。妄想だと思いながら、しかし、この時のことを書いた文章は、どこかで発表するのが怖くて、二十年以上も封印していたのだ。さらに詳細な内容は、今でも、どこかのフロッピーに入って段ボール箱の中にあることだろう。
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