mixiユーザー(id:2938771)

2017年03月21日17:18

238 view

アブ街あの頃(その2)

 野外露出撮影というものをはじめたのが誰だったのか。それは、もういい。ただ、筆者たちは、かなり早い時期にそれを行っていた。あの頃は、野外で女の子が裸になれば、それが深夜でもドキドキとさせられた時代だったのだ。白昼の街を全裸で女の子が闊歩するビデオなどが出たのは、それから十年以上も過ぎてからのことだった。その十年が短いのが長いのか、それも、もう、どうでもいい。
 野外露出の醍醐味は、もしかしたら他人に見られるかもしれない、と、そこにあった。しかし、こちらはエロ雑誌の撮影であるから、実際に他人に見られては困るのだ。トラブルを引き受けていいほど当時のエロ雑誌は儲かっていなかった。
 しかし、あまりに安全な場所、たとえば田舎の山の中では、写真にドキドキを演出させることが出来なかった。写真というものは、ただ、撮ればいいというものではないのだ。記録しているのではなく、演出しているのだ。
 そこで狙いとなるのが、深夜の少し大きめな公園だった。自動販売機など並んでいると、なお、よかった。ただし、代々木公園とか日比谷公園では、まだ、安心できなかった。
 そこで、しばしば使っていたのがお台場公園だったのだ。当時は、まだ、開発前で、今のような賑わいはなかったが、遠くに道路や高層ビルを写し込むことで、そこが都会なのだという印象を写真で出せたのだ。
 人など、まったくいなかった。
 船の科学館あたりの駐車場に車を入れて、そこから徒歩で移動しながら野外露出撮影をしていた。
 大きなトラブルがあった。真冬の撮影で、女の子を全裸にしたところで、サイレンと赤色灯。筆者たちはあわてて逃げた。逃げたのはいいが、編集者は持っているはずの女の子の衣装とコートを持っていない。カメラ機材を分担して持つのに必死で忘れたのだ。
 全裸で逃げた女の子は恐怖と寒さに震えていた。筆者はすぐに自分のダウンを着せた。こちらはパンツを脱ぐわけにはいかない。当時は若かったので、ヒートテックのようなものは履いていなかったのだ。
 真冬に素足は不自然だが、幸い靴だけは履いていたので、歩いていて捕まるほどのことはない。
 撮影は公園のどこかで行おうとしていた。衣装とコートは大きな紙袋に入っていた。それを探して、筆者たちは、冬の公園を彷徨った。
 冷静に考えれば、露出撮影のためにサイレンを鳴らして駆けつけるパトカーは不自然だった。別の何かがあったのだろう。しかし、そんな場面で、冷静になれるはずなのどないのだ。
 ようやく、撮影現場を見つけたときには、筆者の唇は、いや、全員の唇が青ざめていた。
 その公園の道。撮影しようとした自動販売機の並ぶ場所。紙袋を置き忘れたベンチ。その全てが見つからなかった。あの時、紙袋を探していた小一時間で、筆者たちは誰にも出会うことはなかった。しかし、その同じ場所を探す筆者は何人もの人とすれ違った。今は、もう、そこで野外露出撮影をする勇気はない。それは街が変わったからなのだろう。しかし、もしかしたら、それは自分が老いたからなのではないだろうか、と、そんなことを考えながら、筆者は、その夜、思い出の場所を探すことを諦めた。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年03月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031