劇中で印象的な使われ方をしているシチュー鍋のように、雪で閉ざされた小屋の中は腹の読めないクセのある奴らの熱気でぐつぐつと煮えたぎる!
クエンティン・タランティーノ監督の最新作「ヘイトフル・エイト」、緊迫感溢れる快作でした。
この作品、「現代アメリカの縮図」だとか、「根強く残る差別と憎しみを抉ったドラマ」だとか、そんなつまらない理屈を持ち込んで観ない方がいいですね。
人間が「差別大好き!」だってことも、「この世が憎しみと嗜虐に溢れてる」ってことも、タランティーノは先刻承知。そんなもんを今さら「告発」したって何になる? 人間なんてそーゆーもの、と割り切った上で、こいつらの放つ腐臭をオモロいお話のネタにして楽しんでやろうじゃないの。
こういう戯作者精神が隅々まで行き渡っていて、実に愉快でしたな。
諸星大二郎の「巫蟲(ふこ)」という短編の中で、一つの壷の中に入れられた毒虫や毒蛇が互いの毒で殺し殺され、最後に残った奴の毒を使って最強の毒薬を作るという話が紹介されてましたが、本作もまさにそんな感じでしたね。
一応ミステリ仕立ての作品なので詳細については触れません。ただ、前半から非常に周到に伏線が張られているので一瞬たりとも見逃し不可であること、音楽の使い方が絶妙であることだけは言っておきましょう。エンニオ・モリコーネ愛してるぜ!的な趣向が随所にあるんですわ(まさか「エクソシスト2」の「リーガンのテーマ」や、「遊星からの物体X」の曲が使われてるとは! そう言えば本作、「物体X」の影響がかなり濃厚でしたな)。
今、ふと気がついたのですが、この作品、女性に対する性的暴力が一切描かれてなかったですね。
登場する野郎共はいずれ劣らぬ殺しの権化なんですが、
「黒人をたくさんぶっ殺した」
「白人をたくさんぶっ殺した」
「インディアンをたくさんぶっ殺した」
なんて話は出ても、決して「女を犯しまくった」なんてことは言わないんです。やってても言わなかっただけかも知れませんが。
8人のうちのただ一人の女性であるジェニファー・ジェーソン・リーに対し、誰も劣情を催さないってのも興味深いです。その代わり彼女、殴られたり蹴られたり銃で撃たれたり、と散々な目には遭わされますけど。
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