豪華絢爛、最高に贅沢な謎解き絵巻!
シドニー・ルメット監督作品「オリエント急行殺人事件」、初めてスクリーンで堪能いたしました。
面白かった!
ご存知アガサ・クリスティ原作によるこのミステリ大作、フーダニット(犯人当て)や殺人トリックの解明よりも、役者の芝居を楽しませるタイプの作品なんだなあと改めて感じました。
実際この作品、トリックや犯人の設定、謎解きのプロセスにかなり無理がありまして、仔細に検討すると「いや、それはヘンでしょ?」と言いたくなる部分もあるんです。
にも拘らず本作が傑作たり得ているのは、ゴージャスな出演者たちによる鉄壁のアンサンブルなんですね。
事件の容疑者として登場するローレン・バコール、ジャクリーン・ビセット、イングリッド・バーグマン、ショーン・コネリー等の中で、私が一番好きなのはジャン・ピエール・カッセル。この人よかったなあ! オリエント急行の運行を実直懸命に支える有能な車掌である一方、ある哀しい過去を背負って生きているという重い役所を印象的に、でも出しゃばり過ぎずに演じているのが憎いです。愁いを帯びた薄いブルーの瞳も素敵でしたねえ。
もう一つの本作の美点は「華麗」であること。
「2001年宇宙の旅」「遠すぎた橋」のジェフリー・アンスワースのカメラと、リチャード・ロドニー・ベネットの流麗なスコアが、この陰惨な殺人ドラマを最高に贅沢な「大人の遊び」に昇華させておりました。
特に、ワケありな乗客達を乗せたオリエント急行がイスタンブール駅を発車するシーンの高揚感! 少し紗がかかったような淡い色彩の画面と、心躍るワルツ調の音楽が、重厚にしてエモーショナルなドラマの始まりを見事に演出。観ていて「これぞ映画!」と快哉を叫びたくなりましたね。
あと、走る列車を常に定点か横移動のカメラのみで捉えているのも、いいです。下手な空撮なんかがあったりしたら、一気に白けてしまったことでしょう。
忘れてならないのは、この殺人ミステリを重苦しくしないよう散りばめられたユーモアの存在です。
その部分を一手に引き受けているのが、ルメットの「十二人の怒れる男」で陪審員長を演じたマーティン・バルサム。
名探偵エルキュール・ポアロの友人にしてオリエント急行の重役・ビアンキ氏を演じるバルサムが実におかしいのですねえ。
ポアロが参考人を尋問し終えるたびに「彼(又は彼女)が犯人だ!」と決めつけてしまうトンチンカンさは、市川崑の金田一耕助シリーズに登場する等々力警部(加藤武)の「よーし、わかった!」の原型でしょう。
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