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2014年11月29日02:14

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課題小説

 全裸の女二人を獣のように歩かせる。その首には大型犬の首輪、そして、その首輪を繋ぐリードを私が持つ。全裸の女は洋服を着た男や女とすれ違う度に、互いに工夫して裸を隠そうとする。しかし、両手両足を床につけて歩かされているかぎり、女として、もっとも隠したいだろう部分は常に他人の目に晒されているのだ。
 長い廊下からフロントに出ると、その向こうは庭だ。庭までは女を連れたまま出ていいとされている。しかし、庭には、この風俗店とは無関係な人間がいることもあるのだ。それが、出入りの業者だけなら、まだ、いいのだろうが、普通の旅館と間違えて入って来る観光客がいることもあるのだから、そこに全裸で出なければならないというのは女にとって、どれほど恥ずかしいことか。
 フロントに出ると、真っ白なボンデージを身に纏った女が男の肩に乗って歩いて来た。庭を散歩して戻って来た女王様なのだろう。女を乗せているのは、身体は大きいが肉の弛んだ男だった。ペニスは見事に勃起している。
 私とすれ違うとき肩の上の女が「あら、おたくのワンちゃん、痔を患っているのね。お尻の皺が腫れて可哀想」と、言った。私の連れている女の一人が、それを聞いて、しゃがみ込もうとしたが、私はそれを許さなかった。
 ゾクゾクとした興奮が心臓で破裂して全身を走り抜けた。男のペニスをギロリと凝視し、私は大きなその男の肩の上の女王様と自分が同等であることを訴えるように「尻も、アソコも、躾のなっていない犬なものですから」と、彼女を見上げて言った。
 その瞬間、私は連れている二人の女だけではなく、目の前の大きな男も、いや、世界中を自分が支配しているような気分になった。
 この一瞬の快楽を私は高い金で買っているのだ。私は目の前の男を侮辱するために「馬と犬は交尾出来ますかねえ」と、女に尋ねた。
 バカバカしい芝居である。しかし、とてつもなく快楽的な芝居なのだ。どんな高名な役者の芝居でも私をここまで感動させたりはしない。
 そもそも、私は、こうしたこと以外では感動出来ない体質なのである。
 私が自分に違和感を覚えたのは中学生のときだった。学友たちが映画か何かの話題で盛り上がっているとき、彼らが監督の名前を思い出せずにいたので、私は、さっそく休み時間を利用して図書館のコンピュータで調べたのだ。まだ、モバイルなど普及していなかった頃の話だ。
 ところが、答えを持って教室にもどった私に、友人たちは「おまえって、つまらないヤツだな」と、言ったのだ。大騒ぎの元になっていた解答を持って来たというのに、どうして、そんなことを言われるのか、私には分からなかった。
 しかし、そうしたことは、それからも、しばしばあった。大学のときには、文学論に高名な批評家の論文を検索して決着させようとして、嫌われた。そのときには「それは、キミの意見じゃないだろう」と、言われたのだ。私の意見ではないからこそ、信頼に値する意見なのだと私は考えたのだが、受け入れられなかったのだ。
 私は、成績はいいがつまらないヤツと言われるようになった。そして、全ての人が私と少し距離を置くようになっているのだということに気付いた。成績がいいので無視は出来ない、しかし、親しい関係にもなりたくない、それが私に対する評価だったのだ。
 恋人らしい女が出来たこともあったが、同じ理由ですぐに嫌われた。
 会社に入ってからもそうだ。仕事は出来るが、人間関係はまったくダメだった。仕事をしている分にはいいのだが、プライベートな話をすれば、私はすぐに嫌われることになった。皮肉屋、つまらない、高飛車、傲慢、知ったかぶり、と、およそ、私はそのように言われているようだった。
 そんな私の唯一の居場所はSMクラブだった。ここには私をバカにする女はいない。私を崇拝し、私に全てを捧げる女しかいないのだ。気持ちがよかった。日常では、たいした器量でも育ちでもない女に「つまらない」と、バカにされたが、SMの世界では、縛りが上手だ、鬼畜でいい、と、尊敬されたのだ。
 二人の女を連れて庭に出る。庭では二足歩行することを許した。庭からは川を見ることは出来ないのだが、水の流れる音は聞こえている。面白いもので、この水音が日常を思い起こさせるのだ。庭の壁一枚隔てた向こうには日常がある、と、そう思わせてくれるのだ。
 私は、二人の女を連れて、庭を壁沿いに歩いた。そのまま行けば、舗装された道に出る。そこには地元の人も歩いていれば、車も走っている。もしかしたら、地元の子供が遊んでいるかもしれない。ゆえに、そこに女を連れて行くことは禁止されている。私は二本のリードをしっかりと握った。女たちを逃がさないためだ。
 水音に混ざって子供の声が聞こえて来た。近くに子供たちがいるのかもしれない。私は興奮した。この女たちの全裸を子供の前に晒してやろうと思ったのだ。
 しかし、女たちは、それに気づいたのか、歩みを止めた。それでも、私は容赦なくリードを引っ張った。
 ところが、どうだろうか。私は女の一人が反発して引っ張った力に負けてリードを落としてしまったのだ。その上、無様にひっくり返ってしまったのだ。
「それは禁止されていますから、これ以上やるようなら、お店に人を呼ばなければなりませんよ」
 突然、私は震えてしまった。考えてみれば、こんな風俗店が普通のビジネスとして経営されているはずがないのだ。怖い人たちがバックには控えているに決まっているのだ。脅される、殴られるかもしれない、この女たちの前で惨めに土下座させられて謝らなければならないことになるかもしれない。急に怖くなった。
「ああ、もう、こんなところだったんだ。そりゃ、失礼、もどろうか」
 この空間を失うわけにはいかなかった。いや、何よりも、私は怖かったのだ。禁じられたことをした結果として、自分が暴力の対象となることが。
 二人の女は私がリードを拾って旅館にもどろうとすると、すぐに大人しい二匹の犬にもどった。
 ちょうど、その時、庭に入って来た一台の車に怯え、二人は互いの身体で互いを隠そうとくっつき合った。
 再び私は、自分が完全なる支配者になったような快感に酔った。私をひっくり返した罰として、今日は、泣くまで、こいつらを鞭打ってやろうと決めた。可愛そうな二人の女の顔を見上げると、その向こうに鳥が飛んで行くのが見えた。

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