1988年5月。滞在先のアムステルダムで、ホテルの窓から転落死するというショッキングな最期を遂げたジャズ界のレジェンド、チェット・ベイカー。
彼の最晩年の姿と、その謎めいた死の真相に迫るストーリー。
とはいえそれは、フィクションをかなり混ぜ込んだフィルム・ノワール風。
ちなみに、フィルム・ノワール(film noir)をWikipediaで調べてみると、「虚無的・悲観的・退廃的な指向性を持つ犯罪映画を指した総称」とある。
なるほど、本作でのチェットはまさにそれ、そのものと言っていいかもしれない。
長年に渡る麻薬癖で身体はボロボロ。とりわけ「ジャズ界のジェームズ・ディーン」と呼ばれたその容姿は見る影もないほど。
ステージでは、満足にトランペットを吹けない時もあれば、人が違ったように魅惑的なプレイを披露するときもある。
人柄も天使と悪魔が同居しているかのようだ。「放っておけない」人懐っこさがあるかと思えば、迷惑な振る舞いを平然としたり、性格も破綻寸前。とにかく観ていて、なんと闇が深い男だと思う。
ロバート・ジョンソンが十字路で悪魔に魂を売ったのと引き換えにブルースの奥義を得たのと同じように、チェットもまた禁断の世界に脚を踏み込むことでその境地に達したのではないか。
彼の歌、トランペットの音色は聴く者の哀愁(即ちブルース)を呼び起こし、共振させる。それと引き換えに彼は夭折することも許されず、常に破滅寸前のような日々を送ることになった。なんと残酷なミュージシャン人生か。
いったい彼の実像は映画の通りだったのか?それとも誇張されてるのか?
彼の死の真相を追う刑事と観ている我々の想いが重なって、事実を基にしたフィクションが、やがては事実も越えてしまっている迷宮感に包まれてしまう。そんな不思議な映画でした。
【予告編】
https://youtu.be/7pcE408oNN4
チェットを見事に演じたのは、スティーヴ・ウォールというロックミュージシャン。
僕は不勉強にも彼のことは全く知らなかった。洋楽マイミクさんでご存知の方はいるのかな?
特殊メイクなのか、当時のジャケ写や写真で見られるやつれ切ったた風貌を見事に再現。プレイする姿も堂に入ったもの。(ついでに言えば、晩年に使っていた2種類の眼鏡も)
イーサン・ホーク主演の『ブルーに生まれついて』の日記レビューでは、デンマークの名門レーベル「スティープルチョイス」からのアルバム『Daydream』を紹介しましたが、ここでは同レーベルの『Diane』を。(トップ写真 左)
1985年の録音だから亡くなる3年前。特筆すべきは、フリー派として有名なピアニスト、ポール・ブレイとのデュオ。これが素晴らしく美しい対話を繰り広げる。チェットのトランペットに絡む、ブレイの色気溢れるタッチがたまらない。
「Every Time We Say Goodbye」
https://youtu.be/NLCHFU_EPxY
(2016年)『ブルーに生まれついて』
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1957055023&owner_id=26940262
ログインしてコメントを確認・投稿する