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2019年11月08日18:49

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何が罪なのか ( 映画『楽園』)

『悪人』『怒り』など、善悪の彼岸を、哀感を込めた深みある眼差しで描き続けてきた吉田修一作品ですが、この映画もまた力作でした。

それもこれも、見事な脚色/演出で作り上げた瀬々敬久監督の手腕に尽きると思う。
『閉鎖病棟』を観た後だっただけに、その思いもなおさらです。やっぱり「人が好い」だけでは力強い映画は作れないんだな、と。センスの問題もあるけど、やっぱり腕力、足腰の強さ。そのてん瀬々さんは海千山千のキャリアの持ち主で鍛えようが違う。清濁合わせ飲む人間観の広さも然り。

〈あらすじ〉
長野県のある田舎町。ある夏の日、青田に囲まれたY字路で少女誘拐事件が起こる。事件は解決されず。直前まで被害者と一緒にいた親友・紡(杉咲花)や、少女の祖父である五郎(柄本明)らの心に深い傷を残しただけでなく、村中にも重い蟠りが覆うことに。
それから12年後、かつてと同じY字路で再び少女が行方不明になり、町営住宅で暮らす孤独な男・豪士(綾野剛)が犯人として疑われる。追い詰められた豪士が取った行動は・・・。
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さらに1年後、Y字路に続く限界集落で愛犬と暮らす養蜂家の善次郎(佐藤浩一)は、村おこし事業を巡る話のこじれから村八分にされてしまう。追い込まれる善次郎。

今年初めに観たドキュメンタリー『眠る村』など、ムラ社会のダークサイドに着目した映画は少なくない。
しかし本作の秀でたところは、そこから更に人間の根源的な部分をえぐり出していることだ。
最初に述べた通り、いったい何が正しくて、何が悪事なのだろうか?
ちょっと足を踏み外し、世間の価値観から「アウト」な身に立たされることで、人はかくも追い込まれてしまう。真当な道(生き方)とは何なのだろうか? 
幾つもの視点で重層的な問いかけていくのは、人の心、集団心理とはかくも複雑で厄介。そして残酷。

しかも瀬々監督は全てを説明しようとしない。核心的な場面だけをどんどん繋げて描き出していく「痛みのジャブ」
何作も共同作業をしている撮影監督、鍋島淳裕のカメラワークがもたらす緊張感。そして過去の記憶が幻想的に(あたかも神話のように)蘇る終盤の展開。まさ瀬々演出の白眉!

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何度も映し出される青々とした美田の光景。それは農事を守り続けてきた村人たちの営為の証だ。しかしその陰では・・・というのを物語っているようにも思えるのです。観終わってみると・・・
そして楽園とはいったいどこにあるのだろう?それは「青い鳥」のように、実体の無い「心の中の場所」でしか無いのではないか。
様々な思いが気持ちの奥に響きます。まさに傑作。もう時期が時期だし、僕にとっての今年の邦画ベストワンに入るかも?(といっても年間50本程度しか観てないのですが)

フォト【予告編】https://youtu.be/cTM-CusZlG4

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片岡礼子が良かった。善次郎に思いを寄せながら、難しい立場に立たされる難役、しかも濡れ場まで演じたのが素晴らしい目がハート 相変わらず上手いし綺麗だな、と。

『菊とギロチン』(2018年)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1967461199&owner_id=26940262

『ヘブンズ・ストーリー』(2016年)
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『眠る村』
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