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2019年08月14日15:02

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小さな会話、その12

「壊れやすいって、いつから自慢になったの」

 まるで女王様がМ男に対して言った言葉のようだが、これを言ったのはМ女だった。М女ながらにSМクラブを経営していた。スポンサーなしで自らそれを経営していた。彼女と会うまで、筆者は、SМクラブ経営に乗り出すなら、М女では無理なので、女王様になったほうがいいと、そう言ってきた。М女が女王様を雇うということに矛盾があるように感じていたからだ。しかし、彼女を見て、それは違うと分かった。
 彼女はプレイもハードだったが、人生もハードだった。儲かると思えば借金をしてでもビジネスに出る。気絶するまで鞭打たれても次の日には店で笑って電話をとっていた。男にふられようが、女の子たちに裏切られようが彼女は平気だった。
 その彼女と奈良まで車で行かなければならなくなった。いろいろ事情があったのだ。二人で交代で車を運転した。筆者はもともと睡眠時間を長く必要としないので、SМクラブが終わって、そのまま奈良に向かうのも平気だった。しかし、彼女は普通の女なのだ。交代と言っても、途中で彼女が眠ってしまえば、そこからは筆者一人の運転になると覚悟して出た。ところが、彼女は運転も助手席でも踏ん張った。眠りそうになったらこれを乳首に刺すんだと針を用意していた。もちろん、冗談半分なのだろうし、実際、それは使わなかったが、眠らずに行くという覚悟だけは本気だったのだ。
 その彼女が、店の女の子たちは、精神が弱い、身体が弱い、それをまるで自慢のように語るけど、自分にはそれが分からないのだと言ったのだ。男にふられたらニコニコ笑って、調度よかったと言ってやるんだ、と、彼女は言っていた。男と別れて家に帰って一人で泣くなんて絶対に嫌だから、別れたら、その日の夜に誰かとセックスしてやるんだ、と、そう言うのだった。いろいろ間違っているが筆者は好きだった。
 朝には奈良に入り、そのまま病院に向かった。筆者は一人、ホテルにチェックインして、仮眠をとった。その日の深夜には、ホテルをチェックアウトして、翌日には東京に戻る予定だったからだ。夕方にはホテルに合流する彼女も仮眠はするだろうが、筆者ほど彼女はタフではないだろうから、帰りの車はさすがに筆者一人の運転になると、そう考えていた。
 ところが、奈良でショックな事態を抱え、それでも、三時間の仮眠で彼女は、帰りも寝なかった。そして、明るく将来の話をしていた。男も女も、SもМも、皆弱くなって、まるで壊れやすくないと下品だとでも言わんばかりになった、と、彼女は嘆いていた。丈夫なだけが取り柄と言っていたこともあるのに、壊れやすいは繊細だと言わんばかりになった。弱々しい身体で、口だけは一人前。だから、少し攻撃されると、すぐに逃げて、遠くに離れて口だけで悪く言うんだ。それは身体が弱いからなんだ、と、彼女は言うのだった。
 その彼女の夢は、SМクラブとSМサークルとSМ雑誌の融合だった。筆者はその彼女の夢に便乗したかった。しかし、彼女は、その後、別の戦地に赴いて行ってしまうことになる。そのまま連絡も途絶えた。今も、きっと、どこかで彼女は闘っているのだと思う。
 口だけの弱々しい人間たちが今も増えている。増え続けている。血を売って本を作ったバカ。戸籍を売って本を作ったバカ。身体を売って本を作ったバカ。バカには体力だけが売れるほどにあったのだ。身体の弱い利口ばかりで面白いことなど出来るのだろうか。本だけではない。変態世界でも、バカ、と、言いたい、バカと言える相手のいない変態世界は寂しい。寂しい過ぎるのだ。
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