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2019年08月06日00:48

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小さな会話、その4

「騙されてるから、何なの」
 性風俗店で働きながらSМのモデルをしていた女の子。休みなく働く彼女の目的は難病の彼の治療のためだった。しかし、その話はどう聞いてもおかしかった。あまりにもおかしいので、ある撮影現場で、カメラマンの男が、それは男の金目当ての嘘で、君は騙されているだけだ、と、言ったことがあった。筆者はそれを自ら言うつもりはなかったものの、しかし、その意見はもっともだとは思っていた。筆者がそう思いながら、しかし、それを言う気にはなれなかったのは、そんなことを言ったところで、まったく無意味だと知っていたからだった。信じてしまった人は信じることが好きな人なのだ。疑うことは悪だと考えるタイプの人なのだ。他人とは争わず、他人は良い人だから嘘など言わないと、そう信じている人なのだ。そうした人に、騙されていると、いくら教えても無駄なのだ。無駄だということを筆者は嫌というほど知っていたのだ。それがエロ本屋という仕事だったからだ。
 ところが、その時の女の子の答えは、筆者がいつも耳にしていた答えとは少しばかり違っていた。彼女は騙されていることを知っていたのだ。いや、正確に書くなら、その可能性があるということを彼女自身が否定はしていなかった、と、その程度なのだろう。
 騙されているかもしれない。でも、騙されていてもいい。その男は、女を騙すという病気かもしれないのだということなのだ。それなら、その男のために、他の女ではなく、自分が騙されていればいい、そのほうがいい。そうすれば、自分さえ男を恨まなければ、男は悪人にはならないのだから、と、そういう理由だったのだ。そんな理屈があるとは思わなかった。筆者は驚いた。そして、何も言えなかった。
 そんな歪んだ愛があるものだろうか。そして、そんなにも暗い愛があるものだろうか。未来さえなく、ただ、絶望しかない愛なのだ。
 筆者は、この小さな会話によって、自分は一生、エロを書き続けたいし、書き続けなければならないのだ、と、そう思ったのだった。
 遊びとしての楽しいエッチは、それはそれでいい。深く考えるのが嫌で、ただ、エッチ、スケベ、快感、恋愛と、楽しく唄う人たちは、それはそれでいい。ただ、筆者は、闇しかないような場所に蠢くエロを書きたいし、読みたいのだ。いや、書きたかったし読みたかったのだ。しかし、時代は、そうしたものを排除し、ただ、表面上の深く考えない楽しいだけのエロを求めているのかもしれないのだ。広く浅くのエロ。それが求められる時代に、もう、筆者は必要ないのかもしれない。
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