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2019年08月01日15:51

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書き方課題小説

 女物のパジャマを脱いで、女の匂いのするベッドに全裸で寝直した。すでに興奮していた。女があわてて家を出て行ったようだった。真っ白なフレアーのロングスカートが流し台の前の椅子に無造作にかけてあるのが、また、興奮を誘った。あれは昨夜、女が着ていた物だ。酔って帰って仕舞うこともしなかった物だ。また、女が付けている間には、いっさいの興味がないところの下着が窓の内側に干されているのも妙にそそられた。赤や黄色、そのエロティックな色やデザインはどうでもいい。そそられるのは、レースにある糸のほつれのほうだ。そして、洗濯しても残ったいくつかの沁みのほうだ。
 枕元にはいくつものぬいぐるみ。知っているキャラクターもあれば知らない物もある。全てが本来の主ではない私の全裸を見ている。それが、また、興奮するのだ。
 ピンクのカバーの枕に顔を埋めるが、こちらには、すでに自分の匂いが混ざっていた。少しイラっとして私は身体を反転させた。反転させたことで、枕元のぬいぐるみたちと目が合うことになった。そして、反転したことで、今朝、脱ぎ捨てて行ったらしい女の部屋着のワンピースに手が届いた。女の匂いがした。昨夜、酒を飲んでいるとき、女は、明日はどうしても外せない会議があるので、朝は早く出る、と言ったのだ。それを聞いたので、私は女にいっそう酒を勧め、早々に寝るように仕向けたのだ。女と交わりたくなかったからだ。交わればこの貴重な私だけの朝の時間が奪われてしまうからだ。
 女は大手企業の商品開発室というところに勤めていた。エリートらしい。ただ、顔は普通で、スタイルはそこここに脂肪を蓄えた中年女だ。もっとも、私のほうは、売れない作家。顔は悪く、スタイルは中年そのもの。その上、既婚者。エリートという分だけ女のほうがいい。よほどいい。そんな私の何がいいのか、女は、私との関係を絶とうとはしない。
 私は身体を小さなベッドの上で転がし、シーツの冷たい部分を探し、そこに興奮した私自身を押し付けるということを繰り返していた。冷たい部分がシーツになくなると、掛布団に探してその上に寝た。脱ぎ捨てられたワンピースはほんのりと甘い。そして、やわらかく優しい。蓄えられた女の脂肪もやわらかいが、それとは異質なものなのだ。
 私自身があまりの興奮に包まれた皮を畳み、外に出ようとするので、それを何度も手で直し、包皮に露出した内臓であるところの頭を包み直した。厚い皮の中だからこその安心した快感がそこにはあるからだ。足りない。少し億劫だが私は洗濯機に向かい、その中から特に汚れの酷いパンツを探した。まだ新しい茶色い沁みには微かだが元食べ物だった物の痕跡が残されていた。私とは偏差値の違う大学を出て、私なら入社試験も受けさせてさえもらえないような会社に入り、そして、出世していると言っても、その裏側はパンツの裏側に等しいのだ。恐々とその茶色い部分を口に入れ舌で擦る。吐き気。嫌悪。そして、どうしようもない征服感。何て汚い、だらしのない女なのだと怒りを覚えながら、それを口に咥えたままベッドに戻る。クーラーのせいで、ベッドはどこも冷たくなっていた。どこに熱い私自身を擦りつけても冷たいのだ。至福の時間である。この時間のために、私は、女のための小説、文章にはしない言葉にしかしないところの女のための小説を頭に作り、健気にも女の全身をマッサージし、嬉しくもない愛撫を繰り返し、入れたくもない女の中に自分自身を収めているのだ。気の利いた会話。ドライブ。美味しい食事。お洒落なお酒。売れない作家とはいえ、私は作家なのだ。その叡智の全てを傾けて女に尽くすのだ。それはすべて、この時のためなのだ。
 自分の匂いのいっさいない空間における至福の時間。これは結婚しても、同棲してさえも得られないものなのだ。
 洗濯前の女のパンツの中に興奮の全てを放って、時計を見た。午後からの打ち合わせには十分に時間があった。今夜は夜景の豪華なレストランに女を連れて行こうとスマホから予約を入れた。豪華な食事、お洒落なお酒、そうしていれば、部屋はその間に、ゆっくりと私の匂いを消してくれるのだから。

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