mixiユーザー(id:2938771)

2016年08月03日15:46

304 view

編集者の本当の仕事(その7)

 作家の前でその人の作品を読んだときに「いいですねえ」と、第一声で言えない人は編集者としての仕事が出来ない。相手が巨匠であろうと素人であろうと子供であろうと同じ台詞でなければならない。子供だからと言って「いいよ」とか「いいものが書けたね」と、そのように言う人は編集者としての仕事が出来ない。
 しかし、間違ってはいけない。編集者であるかぎり、本気で「いい」と思ってはいけない。どんな作品を読んだときでも、編集者なら「まだまだ」と、そう思うものなのである。それが文豪の作品だろうと文学賞受賞者の作品だろうと「まだまだ」と、思い、直すべきを見つけることが編集者というものなのである。
 言葉で「いいですねえ」と言いながら心では「まだまだ」と思うこと。これは編集者にとって大切な仕事なのだ。
 そして、言葉で「いい」と言いながら作家には直すべきを直させなければならない。
 ただし、このときにも「さらに良くなる」とか「いいんですけど、こうしたほうが」と、そんなことを言ってはいけない。そうしたことは子供を相手にしたときの学校の先生が言うことだからなのだ。編集者というものが相手にしているのは、たとえ相手が子供であっても先生なのだ。間違っても先生相手に自分が先生になってはいけないのだ。
 そこで、直す理由は全て他人に押し付ける。自分にとっては最高なのだが、編集長が、社長が、スポンサーが、読者が、ファンがと、嘘で固める。嘘で固めて少しも引かない。少しも引かないが自分だけは作家の味方だと言い張ること、それが編集者の仕事なのである。
 ただし、例外がある。作品を否定することが編集者にもあるのだ。それは、その作家を見限ったときなのだ。可能性のない作家に長く関わることは編集者としては怠慢になる。作品に見るべきものがなくなったら、さっさと諦めて別の作家を捜すことだ。
 良いと思うのは自分。悪いと言っているのは他人。二人で社会を敵に回して闘いましょうと心で舌を出すのは編集者の大切な仕事なのである。そして、早々に諦めることも、また、編集者の大切な仕事なのである。
3 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年08月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031