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2021年09月23日16:04

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ドラゴンとガメラ、その1

 家に入った新しい家具の周囲をぐるぐると嗅ぎまわる猫のように、ドラゴンはガメラの周囲を嗅ぎまわっていた。ガメラは短い脚を強引に組み、短い腕も強引に組み、そして、いかにも、鬱陶しいという具合に顔を歪めていた。ただ、歪めたところで、あまり表情は変わらない。そもそも、ガメラは元々が怒ったような顔なのだから。
「おい、この鬱陶しいガキがドラゴンなのか」
 ガメラはその怒りを筆者にぶつけた。しかし、筆者より先にそれに答えたのはドラゴンだった。
「ガキとは子供の意味だが、うーん。どうなのだろう。確かに、お前の年齢は不明なところがある。細かな金属の寿命で考えるなら、お前も、また、悠久の時を生きるものではあるわけだが、うーん。これは難しいぞ。とりあえず、妥協点として、ドラゴンと呼べ。ドラゴン様とまでは言わなくてもいいぞ」
「そいつ、やっぱりロボットなのか」
「ロボット。それは少し定義が違うなあ。こいつは自立している」
「二足でな」
 宇宙生命たちは、どうも、この二足歩行に拘るようなのだ。
「しかし、駅前にいた広告宣伝用の看板抱えたサンドイッチマンのようなロボットも二足だったぞ」
 筆者はガメラではなく、ドラゴンに向かって言った。
「自立というのは足のことではないぞ。お前、こいつらが二足歩行と言っているのを、本気で足の数のことだと思ってたんじゃないだろうな」
 思っていた。それをして人間と定義しているのだ、と。
「違うのか」
 呟きのような筆者の問に、今度はドラゴンではなく、ガメラが答えた。
「そういうお前の愚かなところが俺たちは好きなんだけどな。じゃあ、鳥は人間か。じゃあ、二足の鳥がケガで片足を失ったら、それは鳥じゃないのか。鳥には羽根があるが、羽根を切られたら鳥じゃなくなるのか。二足歩行というのはな。思考のシステムのことなんだよ。歩きながら楽器を演奏出来る生命ということだ」
「そういう喩えをすると、こいつは愚かだから、楽器が演奏出来ないと人じゃないと誤解するぞ」
 ドラゴンがそう言って筆者を見た。そこまでバカじゃない。そこまでバカではないが、ガメラの言った意味は筆者には分からなかった。
「とにかくだ。お前、鬱陶しいから、俺の周囲で、ちょこまかするな。踏みつぶすぞ」
 ガメラがドラゴンに言った。これが二人のはじめての直接的な顔を見合わせての会話になった。
「踏みつぶすだって。いろいろな意味でお前にはそれが出来ないだろうよ。まず。お前は俺のように可愛い生き物に危害を加えることが出来ないようになっている。プログラムという言い方を俺はしないから、まあ、心に刻み込まれていると、そう言っておこうかな。それよりも、大事なことがある。お前程度の力では、この大きさの俺にも遠く及んでいないということだ。この甲羅だって、俺にとってはウエハースのようなものだからな」
 ウエハース。ドラゴンがそれに喩えたのは、このところインターネットでスイーツの検索ばかりしていたからに違いない。そもそも、ドラゴンは地球の調査にはパソコンが便利だと言っていたわりに、いつ見てもそのモニターには、食べ物しか映っていなかった。食べ物意外の調査をしている形跡はなかった。
 ウエハースと聞いて、ガメラはハッとして顔を上げ、担いで来た頭陀袋のような厚い布のバックを取り出し、その中に顔を突っ込むようにして何かを探りはじめた。
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