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2019年08月13日00:50

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小さな会話、その11

「クズが嫌いじゃないのよ」
 風俗嬢やAV男優を集めて出版社を作ろうとした女がいた。風俗店とアダルトモデル専門のプロダクションを経営していたので、マイナー出版社ぐらいなら作れるだけの資金は持っていたのだと思う。しかし、失敗した。それは失敗するだろう。風俗嬢の本や雑誌を作るのならともかく、風俗嬢やAV男優を編集者やライターとして雇おうというのだ。それは無理な話なのだ。編集者やライターやカメラマンで風俗嬢になったり、AV男優になるというのは珍しくない。しかし、その逆は、めったにないことなのだ。
 もし、筆者がスタイルがよく顔がよく女にモテたら、さっさとエロ本編集者など辞めてAV男優になっていたところなのだ。そのほうが効率よく稼げたからだ。筆者がそれをやらなかったのはAV男優に必要な全てを持ち合わせていなかったから、それだけなのだ。
 しかし、逆は無理なのだ。たとえエロ本出版社でも、出版社に来るような人間は、本が好きなのだ。作ることが好きなのだ。いろいろ言う編集者たちは、いるが、しかし、彼らがエロよりも本が好きなのは確かなことなのだ。それが証拠に、毎日エロに浸りたいという理由でエロ出版に来て、音楽雑誌やホラー雑誌や車の雑誌に行ってしまった人間は少なくないのだ。安価にSМが出来るという理由でSМ雑誌を作っていたようなバカは何人もいたが、しかし、そうした人間たちは、二十四時間働いて、ギャラの未払いに苦しんで、借金したりアルバイトしながらSМ雑誌を作っていたりしたのだ。その労力と金があったら、SМぐらいいくらでも出来たはずなのだ。
 ようするに、エロ出版社に集まる人間なんてものは、男も女もクズばかり、カスばかりなのだ。ただし、本が好きなので、そのためには努力の出来るクズでありカスなのだ。そこが風俗嬢やAV男優からスタートした人間との最大の違いなのだ。本が好きなら、最初の仕事が本作りなのだ。ライターでも、デザイナーでも、カメラマンでもなく、本を作る人間は、編集者の道を最初から選ぶクズだからこそ、本が作れるのである。
 それでも、筆者は、その会社設立にずいぶんと協力した。ムダだと思ってはいても協力したかったのだ。成功すれば面白い雑誌が出来るかもしれないし、成功すれば面白いものが読めるかもしれなかったからだ。しかし、失敗した。
 本作りから考えれば風俗の仕事はかなり楽なのだ。その上、リスクも実は少ないのだ。何しろマイナーエロ雑誌など、いつ、捕まってもおかしくなかったのだから。その上、捕まれば、けっこう、しっかりと拘留されてしまうこともあるのだ。
 コツコツと文字を書き続けることも、それを校正することも、写真を選ぶことも、地味で苦しい作業なのだ。暗く、孤独な作業なのだ。そんなことは風俗の関係者には出来ないものなのだ。暗いほうから明るい場所には行けるし、寂しい場所から賑やかな場所には行けるが、明るい場所にいたのに暗い部屋に閉じ込められるのは苦痛になるし、賑やかなところで生活していたのに孤独な作業をするのは難しいものなのだ。
 結局、風俗嬢もAV嬢もAV男優も、編集者としては書かないし、編集作業もしないし、そもそも、会社も休みがちとなってしまった。作業する人間がいなければ本は出来ない。本が出来なければ当面の運転資金など消えて行ってしまう。風俗嬢もAV男優も、ライターやカメラマンにはなれるのだ。ただ、彼らは編集者にだけはなれないのだ。
 それでも、彼女は、優等生なんかと仕事したくない、サラリーマンなんかに本は作れない、と、そう言って踏ん張っていた。それはそれで嫌いではなかった。彼女は人間としてクズがいいんだ、と、そうも言っていた。クズを集めて会社を作り、本を作りたいのだと言っていた。結果、それは叶わず、彼女は正業にもどって行き、エロ業界からも、風俗業界からも消えてしまった。
 もし、彼女が風俗嬢やAVではなく、ただ、クズを集めたかったというのなら、彼女は勘違いしていたのだ。それなら、ちゃんと編集者を集めればよかったのだ。そうすればクズの中で彼女は仕事が出来たのだから。
 本しか作れない。本作り以外はクズ。今、筆者はそれが見たい。それが読みたい。エロ本にも、マニア世界にも、クズが少なくなった。良い子ばかりが増えたのだ。良い子が作る良いエロのどこが面白いのだろうか。筆者にはそれが分からない。クズが世間の片隅で怯えた目で作るからエロは面白いのではないだろうか。そんなエロがなくなってしまったことが筆者は寂しいのだ。
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