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2019年07月01日00:05

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エロ本を作っていた、その8

 昭和の終わり頃、筆者はマイナー出版社の女社長の運転手兼編集者をしながら、やっぱりエロ本を作っていた。女社長の年齢は五十五歳ということだったが自称である。ただ、五十五歳には見えないぐらい魅力的な美人だった。少し太っていたが、それも、また、当時の筆者には魅力的に見えた。
 本業は別にあると言っていたが、本業のことは語らなかった。出版社は自分の愛人がやっていたものを、そのまま譲り受けただけで、そこで儲ける気はないとも言っていた。そこで儲けてもらわなければ金持ちらしい社長はいいが、ギャランティで仕事をする編集者たちは食べて行けない。いい本を作っても、営業努力はしてもらわなければ困るのだ。今のようにインターネットで宣伝出来るような時代ではなかったのだから。
 これは、危ういな、と、筆者は直観していた。それでもその会社に関わってしまったのは、その社長を紹介してくれたのが、世話になった人だったからというのもあるが、何よりも、筆者の作りたかった「エロの秘密組織と秘密パーティ」という雑誌を作らせてくれると言われたからだった。
 もしかしたら、この女社長は金融業か何かをやっていたのかもしれない。しばしば、観光地に出かけた。大人しそうな美人なのだが、気性が荒く、すぐにケンカになる。これに耐えられなくて運転手が辞め、筆者は臨時の運転手として無料で雇われたのだ。無料で雇われるなど、今の時代では考えられないが、あの頃は珍しいことではなかった。何しろ、食事は出来るのだ。そして、本が作れるのだ。本が出来ればお金がもらえるのだ。臨時の運転手ぐらいサービスだと思えばいい、と、そんな時代だったのだ。
 黒のクラウンは運転に慣れていない筆者には、たいそう運転の難しい車だった。運転経験はジェミニとカローラしかなかった。たまに機材運搬のバンのような車は運転していたが、大きなクラウンはゆえに、ハンドルが重いだろうと考えていたのに、軽かったのだ。それに戸惑ったのだ。こんな大きくて重そうなものが、どうして、こんなに軽いのか、と、それが理解出来なかったのだ。
 社長は地方の温泉地に仕事で出かけ、そこに一泊する。面白いことに部屋は同室だった。彼女は酒を飲むが筆者は飲ませてもらえなかった。いつ、運転して帰ることになるか分からないからだ。酒を飲むと全裸でマッサージをさせた。しかし、それ以上のことはいっさいさせてもらえなかった。まだ若い筆者がその気になっていても、笑いながら、そこでしなさいよ、見ててあげるから、と、そう言うだけだった。
 彼女はエロ関係の秘密組織や秘密パーティに詳しかった。一度だけ、そうした集会やパーティの写真を見せてもらったことがある。それは、その後、筆者の撮影して来たどんなエロ写真よりもエロいものだった。社長の話だけでも一冊の本になる。もし、写真も提供してもらえるなら、ものすごいことになる、そんな予感があった。その本が出せるなら、その後で貧乏で飢え死にしても悔いはないと、本気でそう思っていた。
 写真には悪魔の儀式のようなものがあり、芸能人らしい人たちの乱交のようなものがあり、人身売買を思わせるようなものもあった。その後に、筆者が空想として製作するところの全てがそこにすでにあったということなのだ。
 残念ながら、運転手が見つかり、また、筆者が少し別の会社で女王様本を作っている間に、彼女の会社はなくなっていた。まだ、携帯電話などない頃の話なので、彼女との連絡はいっさい遮断されてしまった。家賃滞納で部屋を追い出されたために、筆者の電話も彼女の知らないところとなった。あの時代はそんなものだったのだ。
 謎の人たち。謎の会社。理解不能の性癖。昭和のエロ本は、たくさんの謎によって作られていたのである。
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