藤山直美と岸部一徳の顔合わせ、そして舞台が昭和の面影を残す団地ときているから、劇場内9割がたが私よりお年を召したかたばかり。これがみなさん実によく笑う。いやそこは別に笑うとこちゃうやろというところまで笑う。“箸がこけても笑う年ごろ”という言い回しは、ティーンエイジ女子向けのものではなく、シルバーエイジのものだったのか。
先日観たばかりの是枝裕和監督「海よりもまだ深く」では団地住まい家族の会話が妙にリアル、これが関西弁だったらめちゃベタ、なんてことを日記に書いたら、きっちりそのベタがやってきてくれた感じ。実際のロケ地は関東だけど、主人公のふたりを始め関西弁の完璧な使い手たちがいかにもな“向こう三軒両隣り”的密度の濃いやりとりをくりひろげる。
なので唯一の江戸っ子設定、団地自治会長・石橋蓮司そしてその妻・大楠道代(武庫女出身のこのひとは関西人設定、でもやっぱりシュッとしてます)のキャラに妙なシンパシーを抱いてしまうから不思議なもの。話は後半にすすむにつれてドタバタ的要素を増し、松竹&吉本新喜劇を見なれたこちらとしては大団円のようすがおおよそながら見えてくる。
ところが物語は思いもよらない方向に進み、ずっと笑いを重ねてきたシルバーエイジのみなさんも思わぬ展開に口をあんぐり。この作品は阪本順治監督のオリジナル脚本、“笑いと涙の物語”ですべてを収束させることなどいくらでもできたはず。団地という昭和の小宇宙が小宇宙にとどまらなかったとしかここでは言えないのが残念、とにかく破天荒なエンディングなのでした。
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