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2015年07月18日13:13

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その場所には熱があった(11)

 昔、何度となく訪れた店を探していると、ときどきだが、奇妙な感覚に襲われることがある。見つからないのは店ではなく、自分の過去なのではないかという感覚だ。
 あの頃、筆者は新宿で暮らしていたと言っても、決して大げさでないほど新宿にいた。朝八時に集合して撮影に出かけ夜に新宿にもどると喫茶店で打ち合わせ。そのまま居酒屋で飯を食べて飲みに行って新宿のサウナに泊まって次の朝の集合に向かう。
 撮影がなくても、午前十時頃から駅前の喫茶店をうろうろして、次の撮影のモデルを物色したり、打ち合わせをする。
 そんな生活の中、深夜に、ときどき、行く店があった。不思議な店だった。定食屋なのかスナックなのか分からない店。カウンターには八人しか座れない。奥にボックス席が一つ。椅子は四つあるがテーブルはどう考えても二人用の小さなものだ。
 筆者たちは、その奥の席で飯を食べた。家庭料理を出してくれる店だった。たいして美味しくもないのだが、とにかく落ち着いた気分にさせてくれる料理だった。
 そこで筆者たちは、マニア雑誌の夢を語っていた。おかしなものだ。エロ雑誌である。三文ポルノである。そんな世の中のクズのような仕事に夢などあろうはずもないのに、夢を語っていたのだ。
 料理を作って運ぶ老婆は、そんな筆者たちの仕事を知っていた。知っていて、応援してくれていた。不思議な老婆だった。
「長居しちゃって悪いね」と、言うと、必ず「店が混んだら追い出すから心配しなさんな」と、言った。
 新宿は大きなところはそのままなのだが、細かい店はまったく変わっている。あの店が今もあるとは思っていないが、店のあった場所ぐらいは分かるかと思ったのだが分からなかった。
 二十四時間の喫茶店は今もそのままあった。あの頃、よく使った店だった。この近くだったのだ。そう思ったとき、筆者は疑問を感じた。あの店で夢を語っていた相手は誰だったのか思い出せないのだ。あのときに作っていた雑誌は何だったのか、雑誌だったのかビデオだったのかも思い出せなかった。
 そもそも、そんな過去が本当にあったのかどうかも疑問になった。
 魚嫌いの筆者がカレイの煮つけをはじめて上手いと思った店だったことは確かなのだ。でも、記憶で確かなのはそれだけだった。
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