本年度アカデミー賞において作品賞ふくむ7部門受賞、クリストファー・ノーラン監督最新作は、原子爆弾の開発に貢献「原爆の父」と呼ばれた米物理学者オッペンハイマーの伝記映画。彼を演じるのはキリアン・マーフィー、個人的にはブライアン・フェリー唯一の出演映画「プルートで朝食を」の主演、美しきパトリックが印象的。
機密漏洩を疑われた彼が終戦後に召喚された公聴会、重苦しい空気のなかでのやりとりをベースに、時をさかのぼり秀でた学者としての半生を追っていく。前半は会話劇が多く物理学用語と固有名詞が飛び交いやや単調になるも、テンポよく画面が切り替わり、ノーラン監督作品特有の音と光の演出効果が相まって飽きることがない。
”日本“という言葉が初めてセリフに登場したあたりから物語はぐっと緊張感を増し、ニューメキシコ州ロスアラモスの広大な大地での核実験でそれは頂点に達する。やがて原爆は広島に投下、その直後の数シーンを観て気分を悪くしない日本人はいないだろう。たとえオッペンハイマー自身の苦悩と葛藤が並行して描かれているにしても。
出演俳優陣があまりにも豪華、各人の主演作を並べると過去の名作映画がずらり。フレディがいたかと思えばミスター・ローレンスもいた(彼の役柄には驚いた)。オスカー作品王道の重厚な3時間、原爆描写に関する是非よりも、一部からの非難を恐れて作品公開を尻込みしてしまったイマの日本の空気のほうに危うさを感じました。
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