昨日は一日フリーだったので、山下敦弘監督、野木亜希子脚本の「カラオケ行こ!」を観てきました。
今年最初の日本映画の新作がとても楽しい作品だったので、嬉しくなりましたね。
のっぴきならない事情でカラオケ達人にならねばならなくなったヤクザの狂児と、声変わりのせいで高音が出にくくなり始めた合唱部部長の聡実。
どう考えても接点ゼロの二人が奇妙な友情で結ばれていくプロセスを描いた、日本映画ではちょっと珍しい「乾いたコメディ」でした。
なにしろ監督が山下敦弘ですから、愉快痛快爆笑コメディなんてものにはなっていません。奇天烈な状況と風変わりな人物たちが醸し出す「そこはかとないおかしさ」が散りばめられていて、それがたまらないのですねえ。
作中のあちこちで目につく変な小道具も忘れられません。デカデカと亀の絵が描かれた傘、マジックで縞模様が書き加えられた音叉、御利益があるのかどうかわからない変なお守りなどが、なんとも言えない笑いを誘うのであります。
私が個人的に好きなのは、狂児が乗っている黒塗りのセドリック。どう見てもヤー様仕様の、押し出し感満載の車で、しかも今時珍しいフェンダーミラーなのです。
実は私の友人も昔、そっくりな車に乗ってたんですよね。彼のはセドリックじゃなくてクラウンでしたけど。もちろんフェンダーミラー。フロント以外の窓には真っ黒いフィルムを貼って、モロに「ヤバい人系」の車に仕立て上げてましたっけ。懐かしいなあ。
もう一つ忘れられない小道具があります。
それは、聡実が入り浸っている「映画見る部」の部室にある、巻き戻し機能が故障したビデオデッキ。
なにしろ巻き戻しができないので、一度再生したビデオテープはもう2度と観られません。だからそこで観る映画は、部長の少年にとっても聡実にとっても一期一会。再現不可能な「体験」となるのです。
部長のセレクションはなかなか渋くて、「白熱」「カサブランカ」「三十四丁目の奇蹟」「自転車泥棒」と、今時の少年なら普通は観ないようなものばかり。
実はこの4本、ただ漫然と使われてるわけではありません。物語の展開の極めて深い部分にリンクしているんですね。どの作品がどの部分に関わっているかは、観てのお楽しみ。
本作はコメディではありますが、物語の至る所で挿まれるペーソス、人生の哀感に思わずしんみりした心持ちになります。
特に、「狂児」なんてとんでもない名前をつけられたばかりに人生を歪められたと思っている狂児が聡実に「けど、サトミ君は大丈夫や。『聡い果実』やからなあ」と言うシーンなど、人生のままならなさ理不尽さと、普通に平穏に生きられることのありがたさが滲み出ておりましたね。
じわじわと効いてくるようなユーモアと、ほのかな寂寥感に包まれた、とても幸福な映画。なんだか、もう一度観たくなってきましたねえ。
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