6冊刊行された新訳クイーン後期作品をすべて読んだ。
・十日間の不思議(1948)
ライツヴィル三作目。前二作とつながりは無いが、簡単に触れる部分があるので、知っている方が楽しい。時系列順に読んで良かった。
旧友が記憶喪失発作で悩んでいる。自分を見張ってくれとの依頼を受けて、エラリイはライツヴィルに向かう。
破格の構成だ。友人ハワードは生活力のない彫刻家で、富豪の養父と年若い後妻(継母)そして実務家の養父の弟と暮らしている。風変わりな家族の年代記が語られ、現在の問題が明らかになっていく。
全体の九割くらいは普通の文学である。終盤で急転直下、本格ミステリに変貌する。作者の力量に感服した。おまけに神学の見立てという趣向入り。
パズル小説でヒットを連発した直後に、定型からの脱却に成功したのだ。長く愛される大作家だけのことはある。比べる方が無理だが、80年代終盤の日本の新本格は戦前の初期クイーンやクリスティを懐かしんで模倣するところから始まっている。力量と志しの格差に茫然とするしかない。★★★★★
・九尾の猫(1949)
前作「十日間」のあとニューヨークに戻ってきたエラリイは、マンハッタンを震撼させる連続殺人の捜査に協力することになった。
被害者たちに関連はない。無差別サイコ殺人である。典型的なクイーン作品のイメージとは程遠い。従来の作が起こった事件の解決を目指すのに対して、本書は次に狙われる標的を予測して犯行を阻止するために動く。いわばライブ感覚である。マクベインの87分署ばりの迫力だ。存分に楽しませてもらった。
終盤でエラリイが航空機でヨーロッパに赴く。
「この機はどこ行きですか」「さあ、わかりません」
機内で何とも間抜けな会話が交わされる。終戦直後なら、とりあえず欧州に行けるだけでありがたかったのか。当時の旅行風景は貴重なスケッチだ。
ちょっとだけ疑問。大逆転はいいが、その人にそんなことが、物理的にできるか?
とは言え、ユニークでゴージャスな傑作だった。
★★★★★
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