「卵から幼生へ、幼生から成体へ、そして新たな卵を産む」
上陸を控えた仲間たちに交じり、一匹の不穏分子。
「遺伝子をバトンするために僕らは生まれてきたんじゃない」
「一代変種として短い生涯を終えるとしてもかまわない」
「僕は自らの意思で成体にならないことを選んだ」
「これは『輪廻する日常』への挑戦なんだ」
アジテーションするオタマジャクシ、後ろ足が生え前足らしき突起が見えている。
「僕は上陸しない」
心配そうに仲間が尋ねる。
「じゃあどうするん?」
「海に向かう」
「海に?」
「そう海に」
「ここから?」
「そう」
「ここ水たまりだよ」
「分かっている。計画はこうだ――」
1.雨の日に陸地に這いあがる
2.後ろ足としっぽを使って次の水場へ移動
3.川に辿り着くまで1と2を繰り返す
4.川に着いたらあとは流れてゆくだけ
「なるほどね。そこまで考えているんなら、止めはしないけよ。気を付けてね」
オタマジャクシ以上カエル未満――青春とはつまり何者でもないこの瞬間なのだ。
そう自分に言い聞かせながら、かの一匹、雨の日に水たまりから旅立った。
海を目指して……
『本当の自分』になるために。
*****
「お父さんなんか変なんが落ちとる」
子供の指さす先に、変死したカエルの成りかけ。いい感じに干からびている。
「あれはね青春の死体だよ」
自分の死体から目をそらし僕は、オタマジャクシの坊主頭を撫でる。
夏が空のすぐそこまで来ている。
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