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2018年12月21日19:24

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ラーメンの宇宙は1日にして成らず( バラク・クシュナー『ラーメンの歴史学』を読む

いやはや、まさに脱帽の一冊です。

何がって、著者名とタイトルでお察し頂けるように、ラーメンがどのようにして誕生し、現在のような「国民食」へと定着したのか。その長く複雑な歩みを解き明かそうとするのは、米国の現役教授なのである。
ラーメンの関する書籍は、おそらく調べれば相当の数に上ると思いますが、本書を読んだ限りではこれが決定版になるかもしれない。

古代中国における「こねる食材」の黎明、『記紀』の時代から遡る日本の食生活の変遷から物語はスタートする。
中世までの「日本食」というのはとても味気ないものだった。
それに最初の変化をもたらしたのは16世紀の南蛮貿易。
鎖国以降も、江戸期の安定した社会が食文化の多様性をゆっくりと促進させた。その産物でもある饂飩と蕎麦の麺食が定着し、それがラーメン流行の下地を作る。
明治維新後の洋食文化も大きな影響を与えた。多くの華僑が横浜や神戸などの都市に集まるようになり(もちろん以前として長崎も)、彼らの手によりラーメンの原型が生まれる。
しかし当時は脱亜入欧の時代で中国人は蔑視されていた。ラーメンもその偏見のあおりでB級グルメの底辺に置かれていたが、敗戦によってそのイメージが払拭される。食糧難を解消させるために米国が小麦を大量に放出したこともラーメン定着を加速させることになる。
そして、革命的とも言える「インスタントラーメン」の誕生。
ラーメンの味はどんどん多様化の一途を歩み、今や立派な文化でありポップアイコンにもなっている。喜多方を草分けとすると観光資源にもなり、ラーメンミュージアムやテーマパークも数多く開かれ、矢野顕子やシャ乱Qの歌にまで取り上げられる(笑)
大衆食だったラーメンは、今や職人技の域へと達している。

ざっくりとした概要はこんなところ。
たぶんラーメン通を誇る方ならば、そのあらましはおおむねご存知であるかもしれない。しかしクシュナー氏の凄いところは「記紀」から安藤百福さんの自伝まで膨大な資料を駆使し、それを文化人類学的にひとつひとつ丹念に検証していくことだ。それは、ラーメンの周縁に在る食文化のあらゆる事柄に及ぶ。
言わば「研究書」の類いではあるのだけど、読み手の興趣をかき立ててられる、「読み物」として楽しい筆致が素晴らしい。例えば以前に読んだスナックの本が固い論文、下手すりゃ調査資料みたいになってしまっているのに比べ、向こうの先生方は本当に文章が達者だなと改めて思う。専門分野だけでなく、文学その他の視野の広さの発露と言えようか。要するに書き手としてのセンスの問題なのだろうけど(笑)

ラーメンの成り立ちと同時に大きく考えさせられるのは、我々が抱きがちな「和食(日本食)文化」に対する思い込みだ。著者の知的で客観的な視点はそれを解体するのも厭わない。

「日本料理が永遠でも不変でもないこというのが誤りであることが明らかになった神話が1つあるとするなら、それは日本料理には唯一無二の伝統があるという思い込みだ。
日本の食は、東アジアの隣国との交流を通して著しく向上してきた。現代の日本料理の成功は、これらのつながりに負うところが大きい。
ラーメンは何もないところから唐突に生まれたのではなく。中国の影響や東アジアの国々で料理や健康、衛生について様々な議論が行われた結果を受け、世界的な人気を送る文化現象へと発展した。
多くの歴史家や食品産業の専門家が指摘するように、いろいろなものを独自に付け加えることでさらに進化させ、消費者が喜ぶ商品ー10インスタントラーメンやその関連食品ーへと転換する日本人の能力が、国境を越えてて多くの人々の支持を集めさらなる広がりと人気の拡大をもたらしたのである(P352)」

ラーメンだけではないのです。本書はまさに日本の食文化を探求する旅なのだ。
クシュナー氏は、若い時に岩手県の漁村へ英語指導の先生として赴いた時に、連れて行かれたラーメンの美味しさに衝撃を受けたという。文章のいたるところにラーメン愛が感じられるのも、なるほどと思った。それを象徴するのが原題の『Slurp!』。
これってどういう意味?と思ってたら、なんと「ズルズル!」の英語擬音だったとは。で、どうして「啜る」のか?までも真面目に解説するのだから恐れ入る。

日本の文化や歴史に造詣の深い外国人作家や学者は数多いし良書にもこと欠かない。自分が直ぐに思い浮かぶのは2016年の小説ベストワンに選んだジェイ・ルービン(村上春樹の翻訳者)や、ベーブルース来日のノンフィクションを手がけたロバート・フィッツなど。(先日行った図書館では『男色の日本史』なんて本も棚にあった!)
本書もその列に並ぶ好著、と自分が唱えるまでもなく、5年前には食物史の優れた業績に対して与えられるソフィー・コウ賞が与えられている。

フォト
レビュー評価は★★★★

おそらく日記をお読みの皆様は、それぞれ「お気に入り」のお店があることでしょう。もちろん自分もそうだ。
たとえば十三峠ライドの帰りに立ち寄る「恵比寿屋」は何度か紹介しているけど、もう一軒、近鉄今里駅前にある「がんさんラーメン」も昔から馴染みの店。
ここでいつも頼むのはチャンポン。フォト
これが、野菜たっぷりなだけでなく、口の中がヤケドするくらいにスープ熱々なのが、この季節にはたまらないものがあるのです。ちなみにスープは白湯風でなかなかの味。
どうして馴染みなのか?それは帰り道の途中にあって便利だから(笑)
地元の贔屓店なんて、そんなもんじゃないでしょうかね?ラーメンあせあせ
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