mixiユーザー(id:26940262)

Javascript の設定が無効になっているため、一部の機能を利用できません。

詳細はヘルプをご覧ください。

2018年12月09日18:47

258 view

俺の人生に検閲は無い ( 『ジョン・ライドン新自伝、怒りはエナジー』を読む)

昨日の日記で紹介した本は、うっかり返却期日を忘れていたのだけど、こちらは期日を1週間も過ぎてようやく読了(すいません！)

それもそのはずで、本書は600㌻、二段組という圧倒的な文章量！
こんな大作を読んだのは、小説ならばロベルト・ボラーニョの『2666』か、ジョナサン・フランゼンの『フリーダム』以来？

言うまでもなく、セックスピストルズのボーカリストとして、ロックシーンの風雲児と呼ばれた彼の自伝。
書かれているのは、全て話し言葉による独白。
その歯に絹着せない毒舌トークは、すなわち彼の旺盛な批判精神の現れだし、語彙や表現力の豊富さ。時制をも越える奔放な語り口。あらゆる出来事が溢れるように飛び出す記憶力が凄い。まさに語り尽くした一冊。読んでいて目を見張らされるばかり。
翻訳もいい。なによりも彼の語りが「べらんめえ」調にしているのが痛快だ。原書はどんな語調(語法)なのか気になってくる。ジョンはバリバリの労働者階級出身だからコックニーかも？

(1977年左隣はノーラ夫人)

彼が語る当時の英国の社会状況やポップカルチャーなどが興味深いが、洋楽リスナーならやはりピストルズを巡る一連の真相に注目させられてしまう(もちろん彼目線であるが) しかしながら意外なのは彼の音楽観。
パンクロッカーとして世に出ながら、実は彼の後から出てきたパンクスたちを毛嫌いしていた。クラッシュのジョー・ストラマーなんてボロカスである。「スタイル」としてのパンクなんてはなから認めようとしない。
ステイタス・クォーやエドガー・ブロートンバンドといったシンプルで泥臭いロックがお気に入りだったり、レッド・ツェッペリンにもいい曲があるとか、音楽に詳しい友人のツテでECM(ドイツの現代的なジャズレーベル)のアルバムを聴き漁ったり、とても柔軟な耳の持ち主だったのだ。

(1980年 P.I.L活動時)

ジョー・ストラマーをこき下ろしていたのは、彼らが社会運動に傾倒していたからだ。そう、彼はそういった「ムーブメント」が大嫌い。権威も嫌い。チャリティーイベントも嫌い。だから「バンドエイド」なんて彼からすればお笑いぐさ。
それでいて「慈善活動」「社会保障」の問題には前向きだ。じっさい彼は匿名で寄付をしていることを本書で表明している。

私生活など日頃の行いについても意外に道徳的にして健康的。
その指針となっているのが長年苦楽を共にしている愛妻ノーラさん。僕が本書でひときわ胸を打たれたのは、彼女の娘(ザ・スリッツのメンバー、アリ・アップ！)の子ども達(すなわち孫)が、あまりに酷い環境に置かれていたので、2人が孫達を引き取って手厚く面倒を見るくだりだった。
頑固で辛辣で自由な個人主義者である一方、実はとても誠実でオープンな人柄なのである。それは他にも彼の語りの端々に出てくる。

(2015年)

「俺の考えるパンクってのは人間愛なんだよ(P532)」

恥ずかしながら、セックスピストルズはともかく、彼のライフワークと言うべきグループ、パブリック・イメージ・リミテッド(P.l.L)についてあまり知らないままだった。実はずいぶん昔に「メタル・ボックス」を買ったけど、全然良さがわからなかったし。
読了してすぐさま、iTunesでP.I.Lのアルバムを2枚買って聴きながら、この日記を書いている次第。
そう言えば本書をざっと読んでみると、彼の人生はまさに「パブリックイメージ」との闘いだった。その皮肉な絶妙さに苦笑いさせられる。そしてそのP.I.Lを通し、彼が音楽シーンの荒波、あるいは凪いだ海原をいかに乗り切っていったのかも鮮やかに見えてくるのです。