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2018年05月25日19:05

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より良き世を求めて ( 映画『マルクス・エンゲルス』)

とても骨太で、歴史ドラマとしての質感がいい。なによりも、ふたりが抱き追求しようとした理想。その情熱が高揚感となってひしひしと伝わってくる。
観ていて『ローザ・ルクセンブルグ』(87年)を思い出さずにはいられなかった。第一次大戦後に非業の死を遂げた女性活動家の物語だ。
監督は、26年後に『ハンナ・アーレント』で大きな評価を得ることになった女性監督マルガレーテ・フォン・トロッタ。てっきりこの映画、彼女の新作と勘違いしそうになったくらいだ。( 後術するが、実際の監督はラウル・ペックというハイチ人!)

19世紀半ばのヨーロッパ。「共産党宣言」を打ち立てたカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルス。ふたりともまだ30歳手前。
その後も彼らは思想と社会運動に邁進するが、映画はその若き日の時期をフォーカスしている。
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今年はマルクス生誕200周年。とは言え、どうして今マルクスで、今さら共産主義なのか?というのに釈然としない思いだったのですが、観はじめて直ぐにわかった。
彼が活動していたのは、産業革命がヨーロッパ社会を席巻していた時期。
まさに、国という国が工場と化したかのように、生産に追われフル操業し、新たな経済原則が世界を覆っていた。
そこでさまざまな歪みが生じてくる。もっとも犠牲になるのは労働者達だ。
彼らは低賃金でこき使われ、劣悪な環境で暮らさざるを得ない状況に追いやられていた。

経済という怪物が人間らしい営みを奪い、虐げる。資本家が働き手を搾取する。広がる貧富の格差。そう、これは現在と全く変わることはない。
共産主義は、抑圧された彼らにとっては切実なる救済の思想だった。当時は。。。

自分は去年に、共産主義誕生物語と言うべき巨編『フィンランド駅へ』を読んでいたから、これがいい予習になった。映画において、ふたりだけでなくプルードンやバクーニンと言った人士が登場するのに身を乗り出してしまうし、新しい思想についての細かな応酬が描かれるなど、かなり正面きって彼らの事績を再現しているのだけど、あまり予備知識無しで観るには難しいか?でも、題材が題材だから「なんとなく」で観ようとする人も少ないだろうし(笑)
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ただ、それを補ってあまりあるのがふたりと、マルクスの妻であるイェニー達の人間味あふれる人物像だ。議論や思索を繰り返す傍ら、彼らの生活感がよく描かれている。場面によってはマルクス夫妻の情事なんかも登場するし。『ローザ・ルクセンブルグ』を思い出したのはそのあたりだった。
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『フィンランド駅へ』で思い出したのは、マルクスはとにかく批判精神が強過ぎる性格で、仲間を徹底的に非難するのも厭わなかった。映画にもその場面が顔を出す。

あれから170年後のこの世界に、貧しき者の灯火になる福音はあるのだろうか?
共産党宣言は階級闘争を謳っていたが、それは果たして・・・?

フォト【予告編】https://youtu.be/6t5on9lZOJw

監督のラウル・ペック、そうか、17年前の『ルムンバの叫び』を撮った方だったのか。アフリカのコンゴ独立時に謀殺された活動家の物語。あれも重い映画でした。そして同時公開されている公民権運動のドキュメンタリー『私はあなたの二グロではない』も手掛けている。なかなかの社会派なのだなあ。

〈 シネリーブル梅田で上映中 〉

『フィンランド駅へ 革命の世紀の群像』エドマンド・ウィルソン
http://mixi.jp/view_item.pl?id=58973

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