mixiユーザー(id:44534045)

2015年10月26日01:17

96 view

猫と絶望 14

 逃げ惑う人たち、夕方、帰宅ラッシュの駅構から、濁流と化して流れ出てくる。泳ぐようとはいかないけれど、逆らって、僕、喧騒の中心に向かう。改札口、駅員や鉄道警察らしき制服群が円陣を張っている――きっと彼処だ。近づく。円陣の外縁に立ち、隙間から垣間見る――なんだアレは……

「コラ、君ぃ、離れなさい」

 制服の一人に注意された。僕は素直に離れ去る。「おい、猫」自分から猫を呼んだのは初めてかもな。「なんだ?ナツ」「さっき一瞬見えた死体……アレはなんだ?」
 死体――胸の中心部に、直径30cm程もある巨大な穴が開いていた。で、あるのに、血と言えば周囲に一滴も見当ず――傷口の断面は――

「うぷ」

 胃の腑からこみ上げてくる酸味、内臓が飛び出しそうだ。「猫、お前、さっきの死体見たか?」「ああ、お前が見ているものは、私にも見えてる」「アレはなんだ?あの傷口はなんなんだ?」「……どうして私に聞く?」「普通じゃない。あの殺され方は普通じゃない」「ほう、それで?」「この透明銃に撃たれた人の死に方も普通じゃない。そういう意味では共通点が有る。お前、何か知ってるんじゃないか?」「さぁな」
 ――絶対に普通ではない。猫はシラを切っているがあの殺され方……と、ふと目に留まる、見知った人物の影――マズい、さっきの刑事だ。確か黒田と言った。僕は見つからないように急いで離脱、早足で駅裏に逃れる。

*****

 「ここまでくれば――」駐輪場まで逃げてきた。正確には元駐輪場、今は誰も寄り付かぬコンクリの建造物、荒れ放題、空き缶や雑誌やビニール袋が散乱、人気は無い。「ナツ――あと15分だ」「え?」「時間がないぞ」「クソっ」――殺人現場に行けば、殺人犯が見つかるなんて、安易に考えていた。クソッ、どうすればいい?このままでは死んでしまう。
 猫、間延びした声で、「誰でもいいじゃないかナツ、無理に殺人犯じゃなくっても」「駄目だ駄目だ駄目だ。僕には選べない。罪もない一般人の中から、誰かを選んで殺すなんて僕には出来ない。できっこない」「ふむ、じゃあ、お前が死ぬだけだ。さようなら」「お前……お前っていう奴は」この猫が憎い。それこそ”殺してやりたいくらい”。
 落とした目線に、コンクリの床のひび割れ、細い亀裂、湛えている闇、深さはどれほどだろうか?そこに落ちてしまう恐怖。死はきっと、あんな風に暗く昏く闇く冥いに違いない。耳鳴りがする。金属の残響音が、最大ボリュームで頭骸骨の中で乱反射、――死ぬのか?僕……

 ざっ

 ビニールの鳴る音、振り向くと人影、スーツを着た男、中年男性、頭は剥げている眼鏡。そうして左手に黒いビジネスバッグ、右手には――アレは?

「君、高校生?君だろ?市議会議員を殺したのは」

 「ヤバイぞナツ!」「分かってる」――男の右手には、銃が握られている。透明な銃、僕には見える。僕の銃とは違う形をしている。男、ニンマリと笑み――

「おい、タマよ。この子の業(ごう)は深そうだ。この子を殺せば何日だ?何日寿命が稼げるんだ?」

 男――きっと僕と同じだ。眼球に猫がいる?そいつに話しかけてるんだ。
1 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する