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2015年10月14日00:34

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絶望と猫 10

 黒田、駆け出す。篠原は、ズキズキと頭を抱え、「ちょっと置いてくな黒田。車出せ」「え?」「タクシーで来た。現場まで乗せてけ」「……はい」
 黒田、篠原の人物はともかく、その能力には敬服をしている。が、心の何処か――いや、目視できてしまうほどの表層に、言いがたい劣情を抱えている。同期でありながら、部下に成り下がってしまっていることに対する耐え難い劣等感、それがこういった場面では、顕著になる。自分に嫌気がさす。篠原がそれを見透かすように「悔しかったら、私より上の階級に行くことね」と言った。ぎゃふん――この女鬼は、人の心を読む鬼だ。と内心で怯えた。が、流石に「誰が鬼だって」という返しまでは無かった。

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 現場――件のネカフェより3町ほどの離れ。パトカーが数台、群がる人だかり、学校帰りの時間帯、小学生が多い。が、路地裏の死体、教育上とても見せられたものではないR18。
 黒田の覆面を降り、ズレ落ちかけのコートを手繰り上げながら「篠原だ」と、後ろ手に腕を組んだ警官に告げる。警官、敬礼して避ける。黒田、仕方なく従者のように後に続く。

「こ……これは……」

 ――酷い。老人、ざっと推定60歳以上、男性、アスファルトに仰向け、胸に直径30cmはあろうかという大穴が開いている。が、不可解なことに「見ろ黒田刑事」しゃがみ込み、死体の大穴に頬ずりするほどに顔を近づける篠原、黒田もそれに倣う「警部補、この遺体の損傷部――」言葉が続かなかった。遺体の胸に開けられた穴、断面、そのあまりの異様さ……
 焼け焦げてもいないのに、血といえば一滴も流れず。鋭利な刃物ですっぽりと繰り抜かれたかのような傷口。どうやればこんな傷口が作れるものなのか――思考停止してしまっている黒田を尻目、篠原、警官をかき集め――
 「手分けして一帯を探せ。胸部が見つかるかもしれない。それと検問、近所への聞き込み、不審者の目撃情報を集めろ!それと――」
 「井戸田検死官を呼べ」篠原、黒田見ず。不可解な老人の死体を見つめながら「どう思う?」「……現段階ではなんとも……事故の可能性もありますし」

 パーーーン

 篠原の平手が、黒田の頭を張った「バカ野郎!これはどう見たって殺しだろうが?」「ど、どうしてそう断定できるんですか?」篠原ギロリ、横目で黒田を射殺し「アタシの――感だ」

 ファンファン――と、夕焼け茜の群雲に、サイレンの音、吸われていく。

 そうしてついに、胸部――心臓は見つからず。
 
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