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2015年10月12日13:13

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一人歩きの背景色

 キンモクセイのかおりが鮮烈きわまる。
 
 ちょっとそこらを散歩すれば、すぐに香りにぶつかる。一体どこに花があるのか?見渡してもついぞ見つからない。しかし香ってくる。花ビラ一枚見あたらないのに、橙に寄った濃い黄色、眼前一面、レイヤーとなって、歩道に被さる。
 これは”明確に色彩を呼び覚ます香り”だな、多分花を見たことない人でも、この香りを嗅げば、同じ色彩を浮かべるんじゃないかな。なんて感心し、文章もかくあるべきや、と、思案に耽っていたら友人が、「僕はこの匂いを嗅ぐと、なんだかトイレを思い出すよ」と、言った。なるほど、言われてみれば芳香剤の香りだ。しかしこの風光、天高き秋にして明媚なる午後の徒然歩き、その一抹の安らぎたるキンモクセイの登場シーンを、トイレに移されたんじゃあ僕の詩心の面目が立たない。
 あんまり悔しいので「キンモクセイってのはあれだね、金星と木星、どっちが産地なのか分かりにくい名前だね」と、返しに困るようなセリフをぶつけやれば友人、高をくくりて「金曜か木曜日になれば分かるだろう」、と返す。くだらなさにほとほと窮し、街路樹の木肌を睨んでいる、と一つ浮かんだ「じゃあ月曜日には月でも眺めてろっていうのか?」友人たじろがず「君の発想だと、日曜日には目が潰れてしまうよ」

 ――ううむ。

 僕は黙ってポケットに手を隠し、友人と別れ歩き出す。僕の友人は詩を書くのが趣味な男だ。

 名前を、或虎という。
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