・ハイブリッドー新種ー 作:ロバート・J・ソウヤー
完結編だ。勢いはまったく衰えない。科学知識とSF的想像力に支えられた盤石の土台の上で、恋愛や人間関係を絡めた濃密なドラマが繰り広げられ、活劇やサスペンスもたっぷり盛り込まれている。最高点しか考えられない。
印象に残った点をいくつか挙げる。
グリクシン(クロマニヨン)だけが持つ信仰心が、頭頂葉の電気刺激によって生じることが判明した。ポンターが「これで治療ができますね」。宗教は彼らにとって病気なのだ。現代社会の諸悪の根源だと。そのとおりだ。メアリはカトリック教徒だ。彼女の語る内容にますますその意を強くした。嫌になっても離婚できない。避妊も中絶も許さない。レイプ犯の子供でも生むべきだ。なんだそりゃ。未開人の迷信よりひどい。
イスラムもユダヤも同様だが、二千年も昔に羊飼いや農民に教えた倫理基盤が、現代社会に合うわけがない。今まで残ってるのが不思議だ。
バラスト(ネアンデルタール)たちの世界は一種の理想郷として描かれている。狩猟採集民族が高度な文明を築くことは可能か?という疑問がなくもないが、読者の疑問に答える理論が用意されているので、さほど気にならない。結構づくめの社会だが、それなりに問題があるのも公平で気持ちいい。
「女の感じ方は、女のほうが良くわかるのよ」。百合漫画みたいなセリフで普通はニヤつくところだが、ネアンデルタールと40歳近い中年女性の会話だからなあ。ジェンダーとセックスの問題がSFの手法で語られているのも魅力のひとつだ。本作には種族・性別入り混じった三角関係が登場する。三角関係なんて実力のない作家が好む腐れネタと思っていたが、ここまでぶっ飛んでいると感心するしかない。一巻から語られていた磁場逆転の謎は、見事な形で明かされる。
冷戦時代に敵を殲滅するゲーム理論を研究していたアメリカ人が登場する。こいつが何かしでかすとは思っていたが、予想以上の展開だった。フィクションのアメリカ白人が善玉ばかりなのでムカついていた私は、拍手喝采である。カナダ作家の面目躍如というべきか。ラストシーンのアレは、アメリカ読者に対するお詫びを兼ねたサービスかな。
痛快な文明批判を含んだ風刺小説であり、ジェンダーや性の問題に踏み込んだ問題作であり、もちろん一流の多元宇宙+遺伝子SFでもあり、問答無用に面白い娯楽作品だった。
★★★★★
ログインしてコメントを確認・投稿する