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2026年06月19日12:38

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『切腹』

『切腹』(62)監督:小林正樹
ビデオ時代にVHSで買って何度も観た。円盤コレクションに加えるので見直した。
うらぶれた浪人・津雲半四郎(仲代達矢)が井伊家藩邸を訪れた。浪人の口から驚愕の事実が語られる。有名な作品なので、ストーリー解説は要らないだろう。数百本に出演した仲代達矢が「1本だけ選ぶなら、本作だ」と述べた。その事実が全てだ。初見のときは気付かなかった点を語ろう。

まっ四角に切り取られたフレーム中央に津雲が正座しており、井伊家の家臣たちがシンメトリーに鎮座している。逃げ場の無い閉塞感が画面から伝わってくる。物語の大半が津雲の語りによる回想だ。動きは少ないが緊迫感に圧倒される。竹光切腹は正視出来ない残虐さだ。強烈な印象に残るシーンだが、尺はそれほど長くない。そこらの残酷B級映画とは魂への響きかたが段違いである。

弱者を嘲りいたぶる家老(三国連太郎)たちのサディズムは寒気がする。ネットの生活保護者叩きそのままだ。現在でも変わっていない。弱者叩きは日本の国民性なのか。丹波哲郎との対決を経て、切り取った髷を投げ出して嘲笑し、ラストの大暴れになだれ込む。普通なら「いいぞもっと斬れ」と盛り上るシーンだが、喝采を送るより心が凍りつく。半四郎は髷切り三人に加えて即死四人重傷八人の損害を与える。凄まじい実力と言う他ない。井伊家は鉄砲まで使って半四郎を討ち取る。損害は全員病死扱いで、幕府から武士道の正しい解釈で褒められるという胸糞展開だ。個人の正義も武勇も巨大なシステムには踏み潰されるしかない。最悪で最高の結末である。
岩下志摩が娘を演じる。病み疲れた姿で本来の美しさが感じられない。勿体ないと言うよりスターを映画に従属させたから、脅威のハイクオリティを実現できたのだろう。
何本かある至高の日本映画のひとつである。
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