『破戒』(1962) 監督:市川崑
島崎藤村の原作は若いころ読んだ。
明治時代、小学校教員の瀬川丑松(市川雷蔵)は部落出身であることを隠して生きてきた。父の死に目にも会えず、周囲の部落差別に心を痛める。気のいい同僚・土屋(長門裕之)でさえ差別を当然と考えている。ここが一番辛い。風間(船越英二)はろくでなしのアル中で、もと士族という虚妄の誇りが心の支えだ。「世が世なら」「俺は本来は偉いんだ」というセリフの空しいこと。出自に苦悩する丑松との見事な対比である。
風間の娘・志保(藤村志保)は丑松に心を寄せる。純情可憐なデビュー作だ。原作者の名と本作の役名から芸名をつけたそうだ。
丑松は差別撤廃を訴える思想家・猪子蓮太郎(三国連太郎)の著書を愛読している。だが本人を前に部落出身であることを否定する。苦渋の選択である。心が痛くなる描写が寒々とした北国の冬を舞台に続く。
退職を決意した丑松が「騙していてすみません」と子供たちの前で身分を明かし、土下座する。謝るようなことは何もないのだが、明治人の感覚では身分詐称になるのだろうか。最後は猪子の妻(岸田今日子)と共に上京する丑松を、土屋と志保が見送る。別れを惜しむ教え子たちの姿に救われる。原作はアメリカ留学だったか。断然映画の結末のほうが良い。感動のヒューマン大作である。雷蔵はエンタメの二枚目を演じながら、文芸作でも立派な実績があるんだな。早すぎる死が惜しまれる。★★★★★
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