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2016年10月04日21:08

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『魔王子』5(最終巻)

・夢幻の書 魔王子シリーズ5(81)  作:ジャック・ヴァンス
あっという間に最終巻だ。最後の敵はハワード・アラン・トリーソングである。どんな大物かと思ったら、最も小悪党ぽさが漂う。とても裏社会の頂点とは思えない。もといじめられっ子である。魔太郎の怨み帳を空想的にしたような文章を書きつけて自らを慰めていた。それがタイトルの「夢幻の書」だ。

大物ならば、憎い相手は手下を使って殺すなり破滅させるなりすればいいのに、自ら出向いて仕返しする。トリーソングの復讐は残酷というよりユーモラスで、読んでいて気持ちいい。悪党の行動にカタルシスをおぼえる作品も珍しい。復讐譚なら敵を憎らしく冷酷に描くのが定番だが、五人の魔王子の中に嫌悪を感じる人物は一人もいない。むしろ純情で可愛げがある。
主役のガーセンはキャラが薄い。「俺の前にあるのは復讐の道のみ」とニヒルぶってみせるが、女遊びはするし不当な手段で金持ちになるし、人生をエンジョイしている。敵がいいやつで主人公に共感できないのでは、ふつうは娯楽作品として失敗作だろう。だがおそらくヴァンスは、そんなことは百も承知だ。いまどき(だいぶ昔の作品だが)エドモン・ダンテスを真面目に宇宙でやっても無意味なことをわかっているのだ。復讐ハードボイルドの体裁をとっているが、本質は捻じくれたユーモア小説だ。

終盤に自然保護惑星で追い詰めるくだりは、ヴァンスならではの自然系アクションを堪能できる。傍観者と思われた人物が意外な活躍をするのも楽しい。ラストシーンは笑うべきか泣くべきか、混乱する。おそらく大半のSFファンはトリーソングに共感するのではないか。
ひときわ異彩を放つユニークなシリーズである。このまま埋もれさせるのは惜しい。★★★★★
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