・ふぉん・しいほるとの娘 下
やっと読み終わった。中身が濃くて流し読みができず、じっくり取り組んだのでやたらと時間がかかった。充実した読書タイムだった。
産婦人科医を志すお稲は、宇和島の医師・二宮敬作の元で修行していたが、産科を得意とする岡山の石井宗謙に弟子入りすることになった。研修して腕を上げるお稲だったが、ある日師匠の石井に強姦されてしまう。
一度の性交で妊娠したお稲は、女児タダを出産する。愛情のない情交で子を産む羽目になる顛末は、もちろん悲劇である。だが、結果として母の血を引く美少女がこの世に生を受けることになった。稲は結婚せず医学に邁進するつもりだったから、事件が無ければ子を産むこともなかっただろう。運命の皮肉を感じる。とは言え石井の鬼畜ぶりが免罪されるわけではない。
複雑な思いで我が子を見つめるお稲と孫娘を愛するお滝を追いながら、激動する幕末が語られる。とても分かりやすくて面白い。人物を固定して世相を俯瞰すると、ニュースをリアルタイムで見ているような臨場感がある。鎖国政策がなし崩しに潰れたため、追放されていたシーボルトが再来日を果たす。感動の対面だ。が、分断されていた三十年の月日はあまりに長く、神のごとく崇められた名医の面影はすでに無かった。お滝とのロマンスやお稲誕生は知っていたが、再来日の話は知らなかった。酷い歳月の経過が文学の醍醐味を感じさせてくれる。しかしこの時代の男って、下半身に人格が無さすぎだろ。
三代に渡る女の生涯と歴史のうねりを重ね合わせた大河長編であった。娯楽性と文学性を兼ね備えた傑作である。★★★★★
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